螢

冬冬の夏休みの螢のレビュー・感想・評価

冬冬の夏休み(1984年製作の映画)
3.2
大人になる手前の少年の目から見た一夏の世界を、詩情あふれる映像で紡いだ作品。

母の病気を理由に、夏休みの間、幼い妹とともに、母方の祖父の家がある田舎に預けられた12歳の少年・冬冬(トントン)。

地元の子供たちと遊んだり勉強をしたりして過ごす平和でありふれた夏休みというのが、トントンの生活。
でも、その実、彼のまわりでは、大人たちの深刻で様々な問題が存在していて…。

あくまでも、大人の世界の住人になる一歩手前の立ち位置にいる少年トントンの目線からさまざまな事件が描かれていることで、大人たちの事件の生々しさや残酷さは和らげられ、成長過程に見た淡い思い出として、トントンの日常を彩っています。

その視点・構成の巧みさが、「あー、自分が子供の時に捉えていた大人の世界って、こんなだったなあ…」という不思議なノスタルジーを感じさせます。
リアルなようで、本当に身をもって感じるというのとはまた違う、あの感じ。

下手に大人の視点を交えなかった構成は見事だと思います。

それから、光や風、音の使い方も見事でした。
夏の木漏れ日、風に揺れるすだれ、セミの鳴き声など、自然物の極めて自然な感じを、ここまで集めて組み合わせて映像をつくるのは、作り込んだ映像や音楽を使うより、帰ってたいへんだったのではないかと思います。

ていねいに作られた、自然的世界観をノスタルジーとともにのんびり楽しみたいときにいい作品ですね。
螢