極力に説明が排されているので、観ている間は、登場人物の心の動きに追いつけなかった。観終わった後になって、様々な感情が一気に噴き上げてきた。
冒頭のキツネ狩りの映像。兄とレスリングのセッションを組む、マークの頬をつたわる涙。一見穏やかだが、得体の知れない冷徹さを感じさせる、ジョン・デュポン。対照的に、熱く、厳しいレスリングコーチでありながら、愛情がにじみ出ている、ディヴ。
それぞれは、何を求めて、レスリングという競技に取り組んだのだろうか。心の飢えを満たしてくれる、名声、自信、そして何よりも、自分の存在意義としてのアイデンティティではないか。母との確執を乗り越えようと、レスリングに情熱を注ぐジョンは、富と権威を持ちながらも、とても不器用な男だ。
感情を押し殺したような、スティーブ・カレルの表情に圧倒される。いつも陰鬱な面持ちのチャニング・ティタム。両者とも、時に怒りを露わにするものの、台詞も少なく、演技が抑制されている。陰鬱がもたらす「静」と、怒りによる「動」の対比。ただ一人、人間的な温かさを感じさせるマーク・ラファロに救われる。
レスリングや財閥といった、自分に縁遠く感じられる題材であるのに、描いているのは、誰でも思い当たるであろう、人間の心の奥深くに隠された内面。
役者もすごいが、こんな脚本を書いた脚本家と、演出を為し得た監督がすごい。