櫻イミト

徳川セックス禁止令 色情大名の櫻イミトのレビュー・感想・評価

3.5
「日本もフランスも映画を作る者はすべて芸術家、安心して演技してください」。鈴木則文監督が初来日したサンドラ・ジュリアンにかけた言葉である。撮影中にはサンドラに「巴里」という漢字を教えた。「映画ではこの巴里がパリなんだよ。『巴里祭』『巴里の屋根の下』は僕の尊敬する大監督ルネ・クレールの代表作」。日本文化に興味を持っていたサンドラは大いに喜び、京都の映画村を見学した折には時代劇のお姫様の衣装を見て「いつか是非ああいう扮装の映画に出演してみたい」と目を輝かせて語ったという。

サンドラがゲスト出演した「現代ポルノ伝 先天性淫婦」(1971)は「日仏2大ポルノ女優の共演」と宣伝され大きな話題となった。しかしサンドラは”ポルノ女優”と呼ばれることへの抵抗と屈辱を漏らしていた。「わたしはポルノ女優ではない。文化の違う異国に仕事に来たので我慢しているけれど・・・」。

サンドラが帰国する日、鈴木監督は「もう一度京都においで。その時はもうポルノ女優とは誰にも言わせないよ」と告げた。サンドラは笑みを浮かべ「ありがとう。これ、監督にプレゼントです」と手書きのカードを差し出した。そこには漢字で「巴里祭」と書かれていた。

半年後、東映ポルノ路線のスタート5本を依頼されていた鈴木監督は最終作を迎える。プロデュサーからはそれまでの労に報いる意味で、どんな希望も叶えるから出せと告げられた。鈴木監督が出した希望は「サンドラ・ジュリアンを再起用し時代劇の超大作を撮りたい」というものだった。

こうして叶った本作には、鈴木則文監督の愛と意地が感じられる。商業ポルノとしての義務は果たしつつ、ドストエフスキーを念頭に置いて練り上げた脚本には、人間と性、宗教、反権力と、世界の映画監督と並び立つ主張が込められている。映像的にも東映京都撮影所の豪華な時代劇セットや美しい海岸ロケの中で石井輝男監督を思わせるフェティッシュな画作りが為されている。そして本作の裏の主役であるサンドラは、実にイキイキとした熱演が微笑ましい。

では本作が面白いかと言うと、鈴木則文監督×掛札昌裕脚本ではベスト級だが、やはり僅かな商業主義が大きなノイズとなってしまい、個人的には微妙である。自分の好みで言えば、海岸ロケ以外をモノクロのパートカラーにして再編集し、劇伴をバッハにしたら大傑作になると思う。

映画の内容以上に内幕のドラマに泣ける、カルトな傑作だった。

※御触れの高札に掲げられた「法令第一七五條」は、刑法175条”わいせつ物頒布等罪”への皮肉
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