えんさん

未来を花束にしてのえんさんのレビュー・感想・評価

未来を花束にして(2015年製作の映画)
4.0
1912年、ロンドン。悪条件下で洗濯工場勤めをするモードは、幼き頃から洗濯工場にて働いてきて、今では現場のチーフを務めながら、夫と同じ工場で働き、3歳となる小さな息子とともに貧しくとも慎ましやかな生活を送ってきた。そんな中、同じ工場の同僚に、参政権を求めて活動する女性たちと出会う。最初は周りと同様にそんな活動的な女性に距離をおいてきたモードだが、同じ現場で若き女性が男性工場長に性的暴力を受けているところに遭遇し、彼女の考えは徐々に変わっていく。それには自分自身も、夫に出会う前に工場長から同じような暴力を受け、それに耐えてきたからだった。彼女は周囲の強い反発を受けながらも、未来への希望を胸に、社会を変える運動に身を投じていく。。20世紀初めにサフラジェットと呼ばれた女性参政権活動家たちに焦点をあてた人間ドラマ。監督は本作が長編デビューとなるサラ・ガヴロン。

本作は、女性参政権についてに描かれた映画。珍しいなと思ったのは、今まで女性が生きる権利を主張する映画は俗に1960年〜70年代にアメリカを中心として起きたウーマン・リブに関するものが多く、得てして、女性が男性と同じように働けることとか、職場などのコミューンにおける同等の権利(機会均等)について問うものが多く、参政権というプリミティブな問題についてはなかなか目が向けられなかったことじゃないかと思います。まぁ、いわゆる法律上で明記される権利が先なのか、社会的な認知というところが先なのかという問題なのですが、黒人問題など人種や宗教、同性愛などの様々な差別という側面の後者を描くことが多いのは、やはり起こった出来事が事件というセンセーショナルな形が多く、それは近現代に近いほどドラマチックになりやすいということなので致し方ないのかなと思います。その意味で、今は当たり前のように与えられている参政権という当然の権利さえも、その裏では権利を勝ち取るべく奮闘していた人の歴史を描いているという意味で、本作は力がこもった作品だと思います。

歴史劇ということで、少し重ためな作品になるのかなと思ったのですが、味わいとしては非常に地に足のついたしっかりとしたドラマを組み上げています。特に、主人公モードを演じるキャリー・マリガンが線の細さはあるものの、自らの主張を行っていくことで太く大きくなっていくモードという女性像を好演しています。男性を差別するわけではないですが、やはり女性というのは男性に比べて同性の連帯が強く、かつ母としてもつ愛情の深さというのが、男性主体の革命とはまた違うドラマティックな要素を生み出していると思います。本作のモードの場合は、やはり3歳になる幼き息子ジョージにかける愛。ジョージをいつも思いやる母としての顔はどんなときであっても強く忘れず、なおかつ職場の若き娘や、過去の自分のためにも社会的に強く立ち上がろうとする。それを自らの細い腕一本で立ち上がろうとしていく様に、観ている方は惹きつけられるのです。

予告編やポスターでは大御所メリル・ストリープも描かれますが、それよりも、同じ女性革命家として登場するヘレム・ボナム・カーターのほうが凄く印象的。短い登場シーンでも印象深い演技を見せる彼女ですが、彼女の曽祖父が当時のイギリス首相ということも、彼女自身が強く熱を入れている理由かもしれません。ほんの100年位前には、当たり前のように与えられる権利が女性にはなかった(日本では戦後までなかったですが)ということを、改めて再認識させられた作品でもありました。