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インヒアレント・ヴァイスのKuutaのレビュー・感想・評価

インヒアレント・ヴァイス(2014年製作の映画)
3.8
文字通り「煙に巻かれる」が、筋ははっきりしていて、ラブ&ピースな60年代に取り残された孤独な男が、70年代的「政府と産業」に飲み込まれかけたヒッピーを救う話。

話の進め方自体は、ゼアウィルビーブラッド以降の「カッコいい画面の集積」って感じで、ゆるゆる繋がりつつコメディ風味も。ロンググッドバイ。

黄金の牙=国家と企業が癒着した70年代的資本主義で、シャスタ=輝かしい60年代が黄金の牙に取られてしまう。その彼女とよりを戻すのか?戻してしまっていいのか?そもそもこのシャスタは実在するのか?

ラストカットは自由と秩序を取り戻したかに見える主人公も、一寸先は闇だってことだろう。

曖昧な台詞の応酬は、冒頭の「彼女は行ってしまった」のやりとりから示唆されている。

自らが加担するシステムのせいで殺人を犯し、娘に過度な監視を続ける父親は(母親と言ってる人もいたが)、70年代のアメリカやベトナム戦争を連想してしまうし、まさしく構造上の欠陥=インヒアレント・ヴァイスだなと。「欠陥を許し、次の時代へ進もう」というPTAらしい人間賛歌なのかもしれないが。

登場人物の多さが、あの時代の魑魅魍魎っぷりと探偵ドック(ホアキン・フェニックス)の薬中感を示している。探偵と刑事ビッグフット(ジョシュ・ブローリン)はルパンと銭形みたいだった。刑事もまた、探偵と同じく70年代的国家観に反発する生き遅れた保安官だったと。

全体的にサイケではあるものの、頭おかしいシーンはほとんどなく、過去作に比べるとおとなしめな印象を持った。76点。

【PTAまとめ】
ゼアウィルビーブラッド=欲望の20世紀の始まり、アメリカ西部
ザ・マスター=トラウマと欲望を抑圧する50年代、アメリカ各地
今作、リコリス・ピザ=ヒッピーの60年代の終わり、ニューシネマ的70年代の始まり、ロサンゼルス
ブギーナイツ=ポルノ映画全盛の70年代〜落ち目の80年代、ロサンゼルス
マグノリア、パンチドランクラブ=90年代以降の現代のロサンゼルス
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