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夜に生きるのnetfilmsのレビュー・感想・評価

夜に生きる(2015年製作の映画)
3.6
 1917年、第一次世界大戦でフランス軍と組んでドイツと戦った兵隊たちが祖国に帰ると、禁酒法の時代がやって来た。警察幹部トーマス・コフリンの三男として生まれたジョー(ベン・アフレック)は、厳格な父に反発して家を飛び出し、ボストンで銀行強盗に明け暮れる。ある日の逃走劇、ジョーは偶然出会ったアイルランド系マフィアのボス・アルバート・ホワイト(ロバート・グレニスター)の娼婦であるエマ・グールド(シエナ・ミラー)と恋に落ちる。2人の束の間の幸せな日々、カリフォルニアで映画スタントマンをこなす兄を頼り、ボストンでこれが最後だと臨んだ銀行強盗で訪れる悲劇。禁酒法時代のアメリカ、スーツ姿の殺し屋たちが暗躍する姿は、ワーナー・ブラザーズ製の戦前のギャング映画である『犯罪王リコ』や『民衆の敵』の系譜に属する。これで最期だと誓った犯罪に失敗し、ジョーとエイミーの関係を知ったアルバートは激怒し、彼の首を警察に預ける。警視総監である父トーマスはジョーの刑期を3年4ヶ月に縮めるが、彼が出所する2週間前に天国へと旅立っていく。父親の裏取引のおかげで短期で刑務所から出て来たジョーは、アルバート・ホワイトと敵対するイタリア系マフィアのボスのマソ・ペスカトーレ(レモ・ジローネ)の配下となり、フロリダで密造酒作りに着手する。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』、『ザ・タウン』に続き、ベン・アフレックが3たび「ボストン」を描く物語は、ドーチェスター出身の貧しい家柄だったエマを救えないまま、南部フロリダのタンパへ向かう。

 クリント・イーストウッドの『ミスティック・リバー』や、マーティン・スコセッシ『シャッター・アイランド』の原作者でもあるデニス・ルヘインの小説は、警察エリートの息子にも関わらず、悪事に手を染めた主人公が、「禁酒法」と「KKK(クー・クラックス・クラン)」という2つの大きな時代を生き抜いた半生を重厚なタッチで描く。情け容赦ない殺戮、イタリア系vsアイルランド系の抗争劇、葉巻の街タンパでキューバ人と出会い、密造ラム酒造りに精を出した主人公はいつしかエマ・グールドの面影を忘れる。この街でのし上がるジョーの前に現れた印象的な3人の女性。中でもフィギス本部長(クリス・クーパー)の娘として登場したロレッタ(エル・ファニング)が極めて強い印象を残す。カリフォルニアのスクリーン・テストの前に散った少女の夢、腕の血管を探した痛々しいキズとヘロインの後遺症、カトリックの父親が涙ながらに鞭打つ百叩きの刑。キリストの洗礼を受けたロレッタはいつしか聖母と呼ばれ崇められ、PTAの2007年作『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でダニエル・プレインビューの前に立ちはだかったポール・ダノのように「悔い改めよ」とジョーに懺悔を促す。最愛の人の死とかつて愛した人の復活とが入れ子構造のように用意されたクライマックスだが、過ぎ去った時間は永遠に戻らない。
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