えんさん

リスボンに誘われてのえんさんのレビュー・感想・評価

リスボンに誘われて(2012年製作の映画)
2.5
世界中で大ヒットしたベストセラー小説「リスボンへの夜行列車」を映画化した作品。映画の語り口は非常に滑らかで、魅惑的だ。橋の上から飛び降りようとした謎の女性を助けた大学教授が、ふとしたことから女性の持っていた古本に心動かされ、偶然に折り挟まっていたリスボン行きの夜行列車のチケットを使い、リスボンに旅立ってしまうという出だし。ここに残された学生はどうなるのかとか、職場放棄なのではないかとか、無責任なことをしても待ってくれる学長先生は優しいとか、いう細かい設定は自動的に目をつぶらされてしまう。なぜなら、これが映画なのだから。ただ、こうした魅惑的な出だしの割に、物語が後半になるにしたがって萎んでいってしまう。

小説と映画は違うし、映画の中でも人間ドラマとか、コメディとか、ミュージカルとか、ジャンルによって基本的な作り方というものがあります。特に、小説と映画と違うのは、単純に映像化されて、音楽もついて、台詞があるということだけではなく、例えば、映像のワンシークエンスだけで、小説だと何ページ、何場面もあるようなシーンの事柄を全て語らせることが可能なのです(単純なのは、台詞一言で「○○だった」と言わせるだけでも済むし。。)。だから同じ物語でも、小説と映画は違うような印象を持つことも可能だし、あえて原作とは違うお話を構築していくことも(原作者が許すかどうかはありますが)可能なのです。それはやっぱり、これが映画なのだから、、ということに尽きます。

本作の原作小説は未読ですが、原作のお話の方向を忠実に守っているように思います。なので、上記した冒頭の魅惑的なところは魅力たっぷりに描かれるのですが、すべて観終わった後に、なんか、”こんな話なのかい”っと、突っ込みを入れたいほど、冒頭のワクワク感に、中身のボリューム感がついていけてないように感じてしまいました。ただ、これも映画として、例えば、飛び込もうとしていた謎の女性の苦しみがもう少し分かるようなシークエンスを一つ二つ加えるような工夫を施すだけで、作品としての印象が随分変わるように思います。10分~20分長くなっても構わないので、各キャラクターの描きこみをもう少しつければ、大河ドラマとしての完成度は一段階上がったように思うのです。