ちろる

グレート・ビューティー/追憶のローマのちろるのレビュー・感想・評価

3.8
壁にぶつかる不可解なアートや大人たちに搾取される少女の怒りと悲しみのアートなど、
理解できるものとできないものを含めてたくさんの芸術たちや、夜な夜なのパーティーでの雑音たちなどにかき消され、シンプルな美からいつしか遠ざかり、いつしか筆を折った作家でジャーナリストのジェップが魅惑の都市ローマに抱かれながらも自らの孤独感をかき消すことらできない。

無論私にはジェップがおじいにしか見えないけれど、彼は65歳という年齢でありながらもまさしく現役感溢れる男然とした佇まい。
夜な夜なのパーティーでは30代から60代も同じ音で欲望丸出しに踊りまくれるイタリアが日本人の私にはとんでもなく華やかなダンスシーンはとても印象的で、俗的なのになぜかちょっと憧れてしまう。
そしてそれらと対極のように映し出される昼間の修道院の少女たちの清らかで静かな映像や水のせせらぎ。

生と死があり、愛と失望があり、情緒と雑踏がある。そして暗闇の中に浮かぶ初恋の女性の裸体や聖女の祈りなど清廉な目に見えぬ芸術の輪郭が徐々に見えてくる。
真の芸術なんて結局私には語れないし分からない。
でもラストのシスターマリアのシーンではたしかに私は削ぎ落とされた人間の美しさを見た。
観終わった今でもはっきりとは分からないし、やはりこの監督の作品は高尚で少々難解ではある。

アート、愛欲、風俗、宗教、政治、薬、金が混沌と降り続けるこのローマの街でいつしか迷宮入りしたジェップの意識が、 「大切な人の死」をきっかけにして本当の美が明瞭になってくる情景は言葉ではうまく言えないけど感覚で響いてきた。

『旅は有益だ 想像力を誘う後は幻滅と疲労のみ
これは架空の旅 それが強みだ
生から死 人間 獣 町 もの すべて見せかけ
つまり小説 作り話 辞書にもそうある
しかも目を瞑ればだれでもできる
そこは人生の彼岸』
こんなL F セリーヌ 世の果ての旅の一説からはじまる冒頭のシーンからのローマの映像。
もう、なんだよ。カメラワークからぐうの音が出ないほど実にセンスがありかっこいい作品でした。
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