Kuuta

6才のボクが、大人になるまで。のKuutaのレビュー・感想・評価

4.3
「この会話の要点は?」「知るかよ」

年齢を重ねて広がるメイソン(エラー・コルトレーン)の視界は、文字通りカメラを構えることで、世界の美しさを捉えるようになる。全体にオーソドックスな編集なので安心して見続けられるが、家を去ろうとするメイソンを見て母が泣く場面、雑然とした室内を引きで撮ったショットが入ったのはかなりドキッとした。

初めて撮った写真を捨てたい息子と、初めての写真だからこそ大事にしたい母。「人生はもっと長いと思っていた」。過去に取り残された母の孤独が浮かび上がる。この相対的なショットは、幼い頃のメイソンには持てなかった視点だろう。

娘に彼氏が出来たと知った父(イーサン・ホーク)は避妊しなさいと真面目に話し出し、娘は最悪という反応を見せる。まさに、演じる双方が実際の親戚のような距離感だから出来る演技だと思う。

子役の演技演出が素晴らしい。よくわからんオブジェを走り回って父との絆が修復されるシーンは是枝監督の「海よりもまだ深く」のようだった。「真実」のレビューで書いたが、自分の中でイーサン・ホークと阿部寛のキャラが重なってしょうがない。

責任という言葉が、セリフや学校の掲示物などで何度も出てくる。劇中の大人、特に「アメリカの父親」はそれぞれの役割を果たす事、或いは果たせない事に苦しんでいる。

リベラルな父は大人になりきれなかったが、最終的にめっちゃ保守的な家庭で再婚し、身を固める。終盤、バーでメイソンに語る「you're responsible for you」は悩み抜いた父の一つの到達点だろう。ダメな父親は酒に溺れてきたが、それを知っているメイソンはここで水のボトルを選ぶ。

伏線回収されない友人とのやりとり、印象的だったけど二度と出逢わない人が沢山出てくる。その全てが人生を形作っている。

ただ、演出が連続性を帯びている場面もある。例えば、ボウリングは銃の試し撃ちに変わり、ビアポンに変わり、ビリヤードに変わっている。自分の運命を運に任せ、球を打ってみる姿勢が大事。バンパー付きに頼ってはダメだと、父が教えてくれた。それが12年というスパンで繋がっている。ビリヤードが出て来た所で映画の「ハスラー」を思い出した。

見れば見るほど時計の針は進み、映画は残り少なくなっていく。映画表現にはタイムリミットが必ずある。リンクレーターはその宿命をキャラクターの人生や、物語構造と重ねる事の出来る、稀有な監督だ。だから彼の映画には、今に対する切なさや、未来に対する希望が溢れているのだと思う。

(ついで言うと、リンクレーター的な作劇を娯楽映画で試みて毎回苦戦している監督がノーランだと思っている)

その点、ビートルズの「ブラックアルバム」のエピソードは素晴らしい。解散後の4人のソロ曲も、並べ方次第でストーリーが生まれる。離散した4人家族に向けた父のメッセージであると同時に、映画全体のテーマを物語っている。ジョンやジョージは死んでいるけれど、ビートルズのアルバムである事は変わらない。「一瞬」を捉えたものの連なり=映画=家族というアルバムはエンドロール後も続く。87点。
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