YasujiOshiba

複製された男のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

複製された男(2013年製作の映画)
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備忘のために

- ドゥニ・ヴィルヌーヴ作品が続く。ちょっと退屈になったので、飛ばそうとしたら、面白すぎて巻き戻した。飛ばしちゃってごめんなさいって、心の中で謝っておいた。

- ルイーズ・ブルジョワによる巨大な蜘蛛をブロンズ像《Maman》がモチーフ。解釈は自由だけれど、女性であり母であり自然であり、超越的で絶対的でありながら、内在的で無意識的なものかな。その見事な映画的表象。

- トロントの街並みの撮り方がすごい。行ったことがないけれど、行って見たいと思わせる。でも行っても、同じものが見えるとは限らない。
 そして執拗な低音の反復。映画のテーマも反復なんだよね。

- 原作はポルトガル人でノーベル賞作家のジョゼ・サラマーゴによる小説『複製された男』(O Homem Duplicado, 2003)。けれども映画のタイトルが『Enemy』になっていることには注意が必要かも。

- 誰かが「カフカ的な心理スリラー」と言ったらしいけど、これは言い得て妙。ロングショットが美しい写真をとる監督なのだけれど、そこに不思議な閉塞感を漂わせることで、みごとに心理描写を掘り下げてゆく。というか、その映像が、ぼくらを心理解釈に誘うわけだ。

- ストーリーはすごく陳腐。美しい妻が妊娠したとき、外に女を作ったバカな男の話。ただそれだけなのに、ここまでカフカ的な広がりを演出してくれるとは、いやはや、みごとなものだ。

- イザベッラ・ロッセリーニはすごかったな。ワンシーンしか出てこないけれど、それだけで映画を支配してしまった。あのルイーズ・ブルジョワの巨大な蜘蛛《Maman》のように。

- カナダの2人の女優さんも悪くない。愛人を演じたメラニー・ロラン(『イングロリアス・バスターズ』のショシャナ!)も、妊娠中の妻を演じたサラ・ガドンも、じつに謎めいていて魅力的。

- 主演のジェイク・ジレンホールはどうかって?いや、いいんじゃない。ただ、この作品で二役を演じたというのには疑問が残るな。あれは、ふたりのようでありながら、ひとりであり、ひとりなのに敵同士のふたりという役所。
 それからラストシーンのため息。あれはいい。子どもには理解できないかもね。
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