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イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密のkouのレビュー・感想・評価

4.5
《ときに想像もしない人物が偉業を成し遂げる》
他人には理解できないほどの天才という題材は映画でよく描かれる。例えばビューティフル・マインド、博士と彼女のセオリー…挙げだせばきりがないが、今作もそんな題材を扱った伝記映画の名作の一つである。第二次世界大戦、ドイツの暗号エニグマの解読に取り組んだアラン・チューリングを描いた、しっかりとした人間ドラマだった。

とにかく秀逸なのはこの脚本だと思う。しっかりと人間を描きつつ、物語としての盛り上がりがあり、見ている者を惹きつける力がある。難しい内容もわかりやすく描いていて、とても入り込みやすいと思う。暗号解読の天才ながら他人を見下し、協調性のないチューリングという人間性を学生時代から第二次世界大戦期、そして彼が戦後、教師になってからを描くことで彼自身についてわかりやすく描いている。

今作で解読に挑む「エニグマ」は毎日暗号のパターンを変える。そこでエニグマに似せた機械を設計し、天文学的な設定を試していくことになるのだ。しかしそれでもパターンが多すぎる故に解読が間に合わない。そこで解決の糸口となる出来事が起こるのだが、ここがとても映画的でドラマチックで素晴らしかった。ほんの小さな出来事、ほんの小さな一言、でもなるほどと唸らざるをえない納得の展開に胸が熱くなる。しかもそれは、孤高であったチューリングが仲間と手を合わせ、彼らに寄り添った故に勝ち取った成功なのだ。

もう1つ、この映画ではマイノリティについても描いている。チューリングは同性愛者であり、過去の出来事が彼の暗号解読への道へ突き進ませる。また、新聞のクロスワードパズルから募集した(この展開も面白い)優秀な人材も女性だった。当時としては女性が男性と同じような仕事をすることができなかった事実があることからも、本作が世間から遠ざけられてきた者たちの物語だという事がわかる。

チューリングのマイノリティがゆえに辿る結末は決してハッピーエンドではなく、切ないラストではあるが、本作の大きなテーマが感動を呼ぶ。それは「ときに想像もしない人物が偉業を成し遂げる」ということだ。マイノリティに力を与える映画でもあると思った。
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