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しあわせの帰る場所のNMのレビュー・感想・評価

しあわせの帰る場所(2008年製作の映画)
3.7
主人公の父は昔から厳しかった。大人になった今もわだかまりはいっそう強く残る。
母が亡くなり家族親戚が集まるが……。

冒頭のドライブのシーンで彼がいかにつらく寂しい子ども時代を送ったか伝わり、切ない気分になる。
さらに、父と同じ文学の道へ進み、その意味でも一生父の影から逃れられないという重荷を背負った。

重苦しい場面が続き、半分終わったところで初めて少し笑いが起きる程度。その後もまた重々しい。

母の思いも複雑。
息子を愛しているが、なんとかして家庭の調和を保ちたい思いもあり、二手に別れて戦うつもりはない様子。
まだ幼い息子がそれを物足りなく思う気持ちもわかる。
叔母も何とか手助けしようとしてくれる。

父は完全に悪魔かというとそういうわけでもなく、時々本性を隠しているような素振りは見せる。
相手に過度な期待がありそれに沿わないと自分が裏切られたような気分になって許せない。一番辛いのは自分でありみんなその犠牲に応えるべきだと信じている。家族といえども自分の価値観を曲げるつもりがない。
だが自分は悪い父だという自覚が全くないわけでもなく、そんな様子が相手から見て取れると余計に腹が立つ。理想の家族関係があり、現実はそうでないことに苛立ちがある。

妻の死には流石に自責の念も湧く。しかし家族の目が一番怖くてさらけ出せない。
彼は人一倍ストレスに弱い。納得できず、上手く対応できない。それを、ストレスは全て家族のためであると思うことで耐えてきた。妻や子どもは当然自分を愛してくれると勝手に盲信しながら。そうじゃないことが露呈しそうになるとどうしても目を背けてしまう。

息子は何度ぼろぼろになっても尚、父に歩み寄ろうと試みる。本当は僕も愛されているのではないか、いつか父が改心し謝ってくれるのでは、という期待が捨てきれない。敵対したとき先に折れるのは強い側。
大人になっても日常のあらゆる瞬間に幼少期の思い出が蘇る。そんな現実と回想が繰り返されるうち、甥の現在とが自分とリンクしていく。

見ていると、十分苦労してきたのだからもうそろそろ自分のために生きるべき、と思ってしまったが、主人公はそれをせずずっと希望を持ち続けた。
結果としてついに、最悪な時ばかりではなくごくたまには幸福な時間もあった、ということに気付いた。傷ついた父を許し、もう一度関係を作り直す機会を見出した。
どんな家庭にも多少の問題はある。多くの家庭はそれを何とかごまかしたり先送りしたりしながら緩やかな譲歩をし続けて成り立っている。
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