あしたか

楽園追放 - Expelled from Paradise -のあしたかのレビュー・感想・評価

4.9
[再鑑賞]


[あらすじ]
地上文明が崩壊し、廃墟と化した地球。人類の98%は地上と自らの肉体を捨て、データとなって電脳世界「ディーヴァ」で暮らすようになっていた。西暦2400年、異変に晒されていたディーヴァを救うため、捜査官アンジェラは、生身の身体・マテリアルボディを身にまとって地上世界へ降り立つ。


敢えての解説過少気味な冒頭に吸引力がある。
「え?なになに?どういうこと?」と思っていると、観客の質問に答えるように自然な流れで世界観が次々と説明される。ストーリーをもって理解を促す。この時点で作り込まれたSFとして上等の出来を感じ、興奮する。

壮大な設定でありながらメインキャラが2人だけというのも良い。素っ頓狂な舞台がミニマムな人間関係や心情を浮き彫りにするという、いかにもSFらしい物語。
一見完璧な暮らしをしてきた主人公が、そのうち世界そのものや自分の存在意義にも疑問を抱き始める…というストーリーには説得力がある。なにせ膨大な量の情報に埋もれることで逆に不自由に陥っているのは映画を見ている現代社会人とて同じだ。
そんな便利さと引き換えに嘘で溢れた世界において、己の生き様を追求するディンゴというキャラクターは人間の本来的な魅力に溢れていて、思わず憧憬の念を抱く。

前半はそんな彼と主人公の2人だけで進むまさかのバディ探偵物語であり、見る前に想像した内容とのギャップが面白い。

硬派な雰囲気で物語が進むが、神谷浩史演じる3人目のキャラクターが登場したところで一気にギアが上がる。ここからは怒涛のノンストップ展開となり、ロボットアクションを見たい観客も大いに満足できるであろうラストバトルまで破竹の勢いで突っ走る。
前半の落ち着きが嘘のような派手さだが、最後の最後まで前述のテーマを失っていないのがいい。

タイトルの「楽園追放」に込められたシニカルかつポジティブなメッセージも良い。
これが『サバイバルファミリー』なら「電気消失」になるだろう(笑)
人間の楽園を追放されることで本来の温かみのある人間に戻る…という皮肉で緻密なストーリーに声優の好演やド迫力アクションの楽しさが加わった、かなり骨太の大作。
こんな傑作SFがオリジナルアニメーション映画として作られるなんて、日本アニメの未来の明るさを感じてしまった。
あしたか

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