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グリーン・インフェルノのaのネタバレレビュー・内容・結末

グリーン・インフェルノ(2013年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

・そもそも本作では、ジャングルの奥地に主人公が飛ばされ食人族との対面が起きるまでの間、30分以上かけて主人公達の身の上や物語をかなり重厚に描いていたのだけれど、これはイーライロス監督自身が当時”Social Justice Warrior”(「社会正義」の名目で、自身の当事者性の有無に関わらず、過激な主張や私的制裁を顧みない活動家のこと。10年前位にネガティブな意味として流行し、主に環境保護、フェミニズム、SNSでの炎上系ネタに対し用いられた)の存在にうんざりしており、そういう人間がどうなるべきか考えた時に「食われてしまえ!」と思ったのがこの映画を制作する発端だったからだそう。たしかに本作の主人公は、序盤で大学の講義を受けた時から人権擁護と環境保全に対する疑念が一緒くたになっており(目覚めるきっかけが部族の陰核切除の通過儀礼で、それを即座に国連のパパに相談するというのも安直が過ぎると思う)、別に最後まで怒りの矛先自体が抽象的な部分も含め、そこは監督の皮肉満載で楽しく観ることができた。


・スマホやカメラ、SNSのことを本作では「銃」そのものと呼んでいる台詞があり、本作ではそのようなジャーナリズム全体をかなり寓意的に表現している。しかし、本作の寓意性に反し、この10年でSJW的な活動は善悪に関わらず重要性を増し続けている。実際、この手のジャーナリズムは直近5年位で着実に成果を上げており(数えきれない量の女性に対するグルーミングや性加害が告発されてきた)特に人権問題では見過ごせないムーブメントになった反面、スパイや人権擁護の名目の下、本作の台詞の端端で茶化しているより余程下劣な陰謀論との接近も見られるようになった。特に21年、トランプ前大統領の煽動に基づく連邦議会襲撃事件というアメリカ史に残る激烈な前例が出来て以降は、本作のようなテーマを扱うこと自体に映画界が慎重になる必要が出てきている、というのも重要な視点であると思う。いずれにせよ、本作の問題提起は年月を経て正確性に欠けることが実証されつつあり、より俯瞰的に見なければいけない点には注意したい。


・食人映画は『食人族』に始まり80年代に日本で大流行したもので、その大半がイタリア製であり、当時は実際にアジア圏で流行するよう実在する動物の死骸を映像として交互に組み込んだりしていた(なぜかは定かではないが、そういうマーケティングのデータが出ていたらしい)。今作では実在の死骸含め実際の動物に対する暴力描写が一切出てこず、とりあえず最後まで安心して観ることができた。


・監督は『食人族(原題:cannibal holocaust)』を大変リスペクトしており、同作よろしく口と尻で一直線の串刺しになっている死体が登場したり、本作の原題The Green Inferno自体が、食人族の撮影現場で使われていた仮題であった(ホロコーストという字面をどうしても当てたかったからやめたらしい)など、両作品の関係は深いものがある。ロケーションや現代へのメッセージ性などもよく似ていて、本当に食人族が好きなんだなあという印象は観ている最中ひしひしと受けた。


・イーライロス監督が村の原住民(現在は人を食わない)にエキストラを持ちかけたとき、撮影されたこともなければそもそも映画というものを知らない原住民に「映画とは何か」を説明するため、寄りによって食人族の上映会を開き、村人たちは同作をコメディだと思い喜んで鑑賞し出演してくれたそう(めちゃくちゃ面白い)。さらにクランクアップ後、原住民が映画に出演させてくれたことへの「感謝」として、本作のデザイナーに2歳の子供を「差し出した」らしい。ちなみにデザイナーは丁重にお断りした(めちゃくちゃ面白い)。ヤバすぎ。


・メインビジュアルにもある、部族が降り立った主人公達をベタベタ触る肉付きを確かめていくシーンは食人するための実際の風習で、2世代前くらいまでは本当に行われていたものだそう。実際『食人族』の撮影中にも、老いた世代の原住民の方は撮影の合間にペタペタ触ってきたらしい。そこで撮影する気概までは自分には絶対持てない…。


・スティーヴンキングはこの映画を観て「青春時代のドライブイン映画への輝かしい先祖返りのよう。血みどろで、手に汗握り、見るに耐えないものの、目を背けることはできない」とツイート。親くらいの世代にはもはや懐かしい感じすらあるよう。


・本作は全編ギャグに溢れていて、食人映画の中でもトップレベルにコメディ色が強いように思う。最初上陸して大半が死ぬ&生き残りがいきなりプロペラに当たって首が跳ねる時点でもう相当景気がいい。先に死んだ仲間の死体に大量のマリファナをねじ込んで、焼かれて部族がハイになった隙に逃げる→マリファナの空腹症状でかえって生き残りが容赦なく食べられてしまう、という部分も、皆んなが好きなシーン感があり良かった(個人的には一連の件にマリファナを使うのは狙い過ぎててあまり乗れなかった)。


・部族の方が分け与えてくれた肉が人肉であると気付いた瞬間に自殺してしまうヴィーガンの女性、ちょっと舞台装置というか、ウケ狙いの為に殺されていて可哀想だった。他殺前提のジャンルで自殺するのは一見同じように見えて全然意味が違うし、そういうのはどうかと思った。ただその分部族の食人シーンがかなり和気藹々としている(子供がやたら多い)のは、この映画ならではという感じで面白かった。


・後で食べるのなら蟻責めで殺さないのでは??


・総評。殺人と食人のシーンはギャグを交えて観ることができ終始楽しめましたが、監督がこだわるメッセージ性の部分には(特に職業柄もあり)そこまで乗ることができず、そこは惜しいと感じました。でも『食人族』を観た時の衝撃を、再現性を高く保ったままリバイバルしてくれたことには感謝しています。グロも意外としっかりエンタメの範疇に収めてくれているし、終始ご機嫌に観ることができました。
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