こたつむり

マップ・トゥ・ザ・スターズのこたつむりのレビュー・感想・評価

4.0
かつて夜空の星は孤独でした。
しかし、自由でした。
何に頼られることもないけれど。
何に縛られることもありませんでした。

夜空の星が繋がって星座となったとき。
星は意味を持ち、そして拘束されました。
それが良いことなのか。それとも悪いことなのか。誰にも判りません。ただ言えるのは歴史として必然だったということです。意味が生まれるからこそ、歴史は紡がれます。そして、そこに過去と現在と未来が生まれるのです。

紡がれた歴史の良否を決めるのは。
未来の人間です。現在の人間には現在の歴史が正しいものなのか、間違っているものなのか。知ることが出来ません。だから言えるのは、歴史に縛られる必要はない、ということです。歴史を未来へと繋げるために“尊重する”という精神が必要ですが、それ以上に崇め奉る必要はないのです。

さて、本作は。
夜空の星…の物語ではなく。
ハリウッドを舞台にスターたちのエゴが垣間見られる物語…なのですが、主眼は違います。あくまでもスターは虚飾の対象。本作は“呪い”の物語なのです。“呪い”は呪うものと呪われるものが必要ですが、本作で出てくるのは呪われるもの…だけです。

本作を作ったクローネンバーグ監督は、必要以上に説明することを嫌う監督です。本作でも同様に説明描写は少ないですが、他の作品に比べたら理解しやすい物語ではあります。ただ、それでも“呪うもの”の正体が解りませんから、そこには納得する着地点はありません。

だけど、大切なのは現在なのです。
過去も未来もそれは現在と繋がる結果であり、あえて見せる必要がないのです。漫画を描くとき、漫画家は枠線の外まで絵があることを想定して描く…と伺ったことがあります。本作もそれと同様。枠線の外には世界が拡がっていますが、あくまでも枠線の中だけで物語は進行します。

だから、人によっては。
落ち着かない気分になる作品だと思います。ただでさえ、取り扱っている題材が題材ですからね。嫌な気分になるかもしれません。もしかしたら、クローネンバーグ監督は肉体を解体することに飽きて、精神を解体することに挑戦しているのかもしれません。

そんなわけで。
残念ながら巷での評判は芳しくないようですが、人によっては忘れられない作品になると思います。星と星の繋がりの向こう側に息苦しさを感じた人や、紡がれた歴史に抑圧された人にお薦めしたいです。
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