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マップ・トゥ・ザ・スターズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 フロリダ発LA行きの高速バス、周りが眠りに就く中、アガサ(ミア・ワシコウスカ)は窓側と通路側の席を強欲に2つ使い爆睡している。空調で冷えないように、肩にかけられたジャンパーの「いけない子供」の文字。ロサンゼルスに到着すると、リムジンの運転手ジェローム・フォンタナ(ロバート・パティンソン)が彼女を待ち構えている。1時間45ドルのハリウッド・ツアー、ジェロームは駆け出しの俳優で脚本家であり、運転手として糊口を凌ぎながら夢を追っていた。「不都合な真実」のゴア元副大統領やテイタム・オニールを乗せたことを自慢するジェロームに、スター子役だったベンジー・ワイス(エヴァン・バード)の自宅を知っているかと尋ねる。一方その頃、ホジキンリンパ腫の少女を見舞うかつての人気子役こそベンジー・ワイスだった。母親のクリスティーナ(オリヴィア・ウィリアムズ)は、スキャンダルで人気が失墜したかつての名子役のステージママとしてマネージャー業で息子を溺愛する。父親のスタッフォード・ワイス博士(ジョン・キューザック)はワイス家の家長であり、有名セレブのクライアントも多く抱える心理学者だった。その日、彼の顧客の1人である人気女優のハバナ(ジュリアン・ムーア)がカウンセリングに来ていた。マッサージと精神統一の部屋で、何故か涙が止まらないハバナは、低迷期に入った落ち目の女優でなかなか欲しい役が見つからない。

 ロサンゼルスの女優の内幕ものと言えば、近年ではデイミアン・チャゼルの『ラ・ラ・ランド』やニコラス・ウィンディング・レフンの『ネオン・デーモン』が真っ先に連想されるが、今作はまるで趣の異なる2本のバランスを取るよりも、異端児として振る舞う。『マルホランド・ドライブ』よりも真っ赤な鮮血が滲むある一家の『サンセット大通り』との形容こそ相応しい。セレブ一家のワイス家の内情と焼けただれた忌々しき過去、女優として絶頂にあったスターの実母を巡る深刻なトラウマはある日ひょんなことから同期し、幸せな日常を歩んでいたはずの登場人物たちは一気に狂気に引き込まれる。これまで70年代後期のホラー映画の中でも「幽霊」の描写を極力排除して来た大ベテランのクローネンバーグ映画に訪れた夢遊病者たちの夢まぼろし。お湯の入っていないバスタブに浸かる女、キャンピング・カーのトイレで用を足すミスター・アソコことロイ(ショーン・ロバートソン)の無防備な背中、自宅のプール・サイドで火に包まれた愛しき妻の残像。狂信的なイメージにとらわれ役を失った男、皮肉にも親友の息子の不慮の死で役を勝ち取った女優の人生は交差する。前作で母親の子宮のようなメタファーとなったリムジンの中に篭ったロバート・パティンソンの死んだ魚のような目、役のためなら3Pをも厭わないジュリアン・ムーアの放屁混じりの怪演ぶりは今作のハイライトだが、12000ドルのカウチにこびりついた生々しい経血が月の満ち欠けを促す。それ以上にジョン・キューザックの死んだ魚の目のような表情が素晴らしい。

本日、お陰様で好評をいただいているイベントの3回目です。
2017.07.25.(TUE)21:00~03:00『netfilmsと映画の日 3』charge:500yen
@Music Bar LYNCH  栃木県宇都宮市二荒町8-12
ここでは書けなかったディープなクローネンバーグ論について6時間喋り倒します。是非とも遊びに来て下さい。
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