HAYATO

人生スイッチのHAYATOのレビュー・感想・評価

人生スイッチ(2014年製作の映画)
3.8
2024年397本目
さりげない選択が人生を大きく変える
暴力と復讐という共通したテーマを持つ6つの独立した短編で構成されたアンソロジー
人生において決して押してはならないスイッチを押してしまったがために、絶望的な不運の連鎖に巻き込まれていく男女6人のエピソードを描き、第87回アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされた。
『オール・アバウト・マイ・マザー』などで知られるスペインの巨匠・ペドロ・アルモドバルがプロデューサーを務め、これが長編映画3作目となるアルゼンチンの新鋭・ダミアン・ジフロンがメガホンをとった。出演は、『トーク・トゥ・ハー』のダリオ・グランディネッティ、『ペイン・アンド・グローリー』のレオナルド・スバラグリア、『笑う故郷』のオスカル・マルティネス、『超能力ファミリー サンダーマン』のディエゴ・ベラスケスなど。
Filmarksの評価はそれほど高くないものの、IMDbではスコア:8.1という超ハイスコアだったので気になって見てみた。
本作は、感情の爆発をテーマにした6つの短編物語で構成されたオムニバスドラマ。各エピソードが独立したストーリーを持ちながら、共通して「怒り」や「復讐」という普遍的な感情を大胆に描き出している。滑稽でブラックなユーモアを交えながら、日常生活の些細な選択がどのように予想外の大惨事を引き起こすかを示している点が最大の魅力と言える。
冒頭のエピソードは、飛行機の中で展開されるミステリアスで皮肉な物語だ。乗客全員がある1人の男性を知っているという驚きの設定が一気に観る者を引き込む。会話の中で徐々に明らかになる関係性の数々が、復讐劇としての緊張感を高めつつも、滑稽さを感じさせる絶妙なバランスで描かれている。このエピソードは、物語の方向性を示すだけでなく、映画全体のテーマを端的に表現している。
第2話では、復讐をテーマにしながらも意外な展開が待ち受ける。都会の喧騒を離れた郊外のレストランで、中年男性が訪れる。彼はウェイトレスの家族を破滅させた張本人。自然と彼女による復讐を期待するが、復讐の主体は実は厨房の女性シェフだった。その結末はシンプルかつ衝撃的で、人間の感情がもたらす予測不能な所業を見事に描き出している。
スピルバーグの初期作『激突!』を彷彿とさせる第3話では、運転中の些細な言動が引き起こす悲惨な結果が描かれる。乾いた砂漠地帯を舞台に、ドライバー同士のエスカレートする口論が壮絶なバトルに発展する過程がスリリングで目を離せない。ラテンアメリカ特有の過剰な感情表現が生々しく、笑いと恐怖が同時に押し寄せる。現代社会におけるストレスと衝動性を痛烈に風刺している点で強い印象を残すエピソードである。
第4話は、不条理な制度や理不尽な対応に男が怒りを爆発させるエピソードであり、駐車違反に端を発した事件が、主人公の人生を解体するきっかけとなる。社会的な不公平への怒りが最高潮に達し、彼が選んだ過激な行動は一種のカタルシスをもたらす。ブラックユーモアと社会風刺が巧みに交差し、個人の尊厳や正義の意味について深く考えさせられる。
富裕層の醜悪な姿を描いた第5話では、息子を守るために犯罪を隠蔽しようとする父親が、次第に自己保身と金銭欲に支配されていく。登場人物全員が金銭に執着し、倫理観を失った姿が痛烈に描かれ、現代社会のモラルの欠如を浮き彫りにしている。結末は皮肉とブラックユーモアが効いており、苦笑を誘う。
そして最終話。花婿の浮気を知った花嫁が結婚式場で暴れる第6話は、シリーズ全体を締めくくるにふさわしいカオスだ。両家の親族や友人が巻き込まれる騒動の中で、嫉妬心と自己肯定感がぶつかり合う様子がコミカルに描かれる。最後に意外な形で愛が成就する展開が面白い。
本作は、日常の中で感情が爆発する瞬間を鋭く捉え、ブラックユーモアと過剰な演出を交えて描いた作品だ。その大胆な語り口は、アルゼンチン特有の情熱的な国民性を強調しており、ラテン文化の魅力を余すところなく伝えている。ブラックコメディの要素が強いが、人間の本質や現代社会のストレスを浮き彫りにする鋭い洞察が光り、社会の理不尽さや人間の欲望に対する痛烈な風刺を楽しみつつ、最後には心に残るカタルシスを得られる。
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