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アメリカン・スナイパーのこのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
3.8
「英雄」や「ヒーロー」という名声を得てこれほど心から喜べないことがあるだろうか。使命感と倫理観の狭間で葛藤するクリスを見ていて終始胸が締めつけられるような思いだった。

仲間の為、国の為、愛する家族の為に己の能力を最大限に活かそうとすることで、別の国の小さな命さえ奪わなくてはならない。

ロケットランチャーを持った少年に「頼むから捨ててくれ」と懇願するクリスを見て、未だになくならない戦争の現地の戦士達の心の叫びが垣間見えたような気がした。

英雄などと呼ぶには容易いが、呼ばれる方は大量虐殺者の汚名と認識するには十分すぎるほどの心的外傷である。引き金を引く瞬間の彼の心の奥底にあるのは、名声への執着ではなく、己の判断や行動が真に正しいかどうかの自問自答。

きっと彼のような葛藤を抱えて引き金を引く兵士たちはこの世の中に五万といるのだろうと痛感した。

晴れて国を救った英雄となった後も、その心が晴れることは決してない。遠い国でなくなる尊い命のことを考えると、あまりに平和ボケした故郷にどこか違和感を拭いきれず、憤怒さえ感じることがある。

それでも退役軍人の心の支えになることでいわば自分の中での贖罪を果たそうとし、「英雄」ではなく「父親」として存在意義を果たそうとするクリスに胸を打たれる。

戦争はあらゆる人間の心を蝕む。これはイラク戦争での英雄の物語ではなく、1人の父親が不本意な名声を押し付けられつつ、それでも己の信念を突き通すことの美しさを謳った作品。

「殺す」ことではなく「守る」ことの美しさこそ至高だと、社会に知らしめたクリント・イーストウッドならではの名作だったと思う。
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