Bellissima

こっぱみじんのBellissimaのレビュー・感想・評価

こっぱみじん(2013年製作の映画)
4.5
『こっぱみじん』@新宿K'sシネマ

とても素敵な作品。主要人物4人全員一方通行の片思いの報われない恋愛劇。叶わぬ恋それは決してポエティックなものではなく「好き」ってことを突き詰めた時に表れる「剥き身」みたいなヒリヒリする傷つきやすい心の地肌。こう書くと辛い後味を連想しますが鑑賞後の感覚は至って晴れやか。お薦め!

主人公 楓は幼馴染みの拓也に想いを寄せる、拓也は長年想いを寄せる人物がいる。楓の兄には結婚を考える彼女がいる、その彼女も何だか色んな感情が蠢いている。情性に流されるまま日常を過ごす楓の変化していく姿、一人一人の「好き」の感情の揺らぎの先に成長が課せられている。

言葉の周囲に染み込んだ風景の輪郭、擦れ違いで互いの気持ちが重ならない感情の揺らぎ、研ぎ澄ましていく胸奥に転がっている想いが瑞々しい湯気をたて時空の粒子が色めき息づいていく。田尻監督の演出は伸びやかで丁寧で的確。なによりも登場人物達に向けるまなざしが暖かい。

若者達のままならない気持ちが滑稽で物悲しく見ていて胸の痛みを感じた。大切なモノはとても痛い。その痛みは私たちの価値観を動かしている。それを思い出しました。映画という媒体がここまで愚直で一途で純粋な人間の姿を映し出し、見る者に尊さを伝えきった事に心から拍手を送りたい。

人と人が交わるときの波立つ思い、相手に届かない孤独、本心から逃げようとする身体、互いに胸の内を開いていく幸せになりたい気持ち、温かく溶けていく感情、誰もが抱える「好き」の柔らかな部分に触れる巧みさ。リアルな手触りが何時までも心に残る深い味わい。

存在を巡る普遍テーマをわかりやすく丁寧な会話で伝え、細かい気持ちの襞をすくい上げて見せる。それぞれのエピソードを人物の中に着地させその人がそうしている自然な役の付き方(呼吸や温度がふと感じられる)に感動ひとしお。我妻三輪子さんを中心とする役者陣が尽く見事でした。
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