Bellissima

イーダのBellissimaのレビュー・感想・評価

イーダ(2013年製作の映画)
4.5
『イーダ』@渋谷イメージフォーラム

観賞後受け取った映画を氷解するのに時間を費やす。劇中でかかる音楽、交わされる言葉、土地や民族に関わる歴史、イーダの微細な変化や反応。連鎖的に他の場所に飛び火して行き言語化するよりも奥へ奥へと思考が深く潜る。答えなき答えを捜し考察に没頭する映画鑑賞の醍醐味。そうゆう作品。

世俗の垢にまみれるヴァンダと出逢ったとき、この物語の行く末は既に定まってしまったのかもしれない。スターリン支配の終焉、ユダヤ人である自分の置かれた状況の重さ、触れる事の出来ない者の記憶と物語の体験。その事でイーダは世界を初めて有機的な広がりと捉える。

射る様に強い眼差しそれでいて外界に焦点を結ばない彼女が見ている先に切実な感情的モチーフが覗いている。滲む心傷の痛みと物悲しさ感情に溺れぬ現実的なさま、他人には見えない自分との決別。もう少女と女は同じ比率では共存していない。そこにいるのは虚飾されていない等身大の一人の女性。全ては沈黙のために。

歪んだ世を冷たく見据えたモノクローム、峻厳にして禁欲的な独自のスタイルが貫かれている。固定画面の多いカットの積み重ね完璧なまでに計算された構図、感情を抑えた演技は画面に厳粛さとでも云ったものを醸し出している。

派手さやセンチメンタリズムを排除し、孤独を淡々と冷厳に容赦 なく映し出し内面にまで至ろうとする研ぎ澄まされた映像に無抵抗のまま感嘆するよりほかない。映し出された被写体からどれほど多くのものを感じることができることか。人間の罪深さや世の無常を一身に背負っているのにそれが映像として「悲しい」というよりも「美しい」と思ってしまうことにこの作品の絶対強度がある。
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