Inagaquilala

西遊記 はじまりのはじまりのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.7
こんなに面白い「西遊記」を観たのは、「エノケンの孫悟空」以来かもしれない。とにかくこれだけ徹底的に楽しい映画をつくれる人物は、残念ながらいまの日本にはいないと思う(そう思うとエノケンこと不世出の喜劇役者・榎本健一は偉大だった)。

冒頭の海沿いの集落で繰り広げられるドンキーコングのようなアクションシーン、服従シールを貼り付けて繰り広げられる抱腹絶倒の求愛場面、「2001年宇宙の旅」の1シーンを真似た大日如来が地球を眺める絵柄、そしてラストに流れる音楽は「Gメン75」と「柔道一直線」のテーマソングだ。

もう奇想天外という言葉がぴったりの内容。これだけやりたい放題やっていて、作品としての統一感も失っていないのが、チャウ・シンチー監督の真骨頂だ。

物語は題名の通り、「西遊記」の前日譚。とはいっても、孫悟空が登場するのは、映画が始まって1時間超、物語の後半に入ってからだ。

この作品は孫悟空というよりも、玄奘三蔵の物語。なんと三蔵法師の前身は妖怪たちを退治する「妖怪ハンター」という設定だ。のちに三蔵法師となる若き玄奘は、わらべうたで妖怪たちに善の心を呼び起こし、改心させるという性善説の妖怪ハンター。

この玄奘に恋をしてしまう武闘派女子の妖怪ハンター・段が絡む。このラプ・ロマンスの要素もチャウ・シンチー作品の隠し味だ。

ラストは三蔵法師が孫悟空、猪八戒、沙悟浄を従え、「Gメン75」のテーマに乗って、天竺への旅に出るところで終わるのだが、この後の物語もチャウ・シンチー監督で観てみたいと思うの自分だけではないと思う。
Inagaquilala

Inagaquilala