ブタブタ

アイアムアヒーローのブタブタのネタバレレビュー・内容・結末

アイアムアヒーロー(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ジョージ・A・ロメロ監督『ゾンビ』を小中学生の時に見て、そのまま精神年齢がストップしているボンクラ大人男子小学生なら日本でゾンビが発生した場合、真っ先に向かう場所は郊外型巨大イオンモールか巨大アウトレットモールだろうと一度は考える事をついに映像として本当にやってくれました。
『ゾンビ』へのオマージュも溢れていて、買い物のカーゴでヒロミを英雄が運ぶのは『ゾンビ』でショッピングモールの中を行くピーターとロジャーの2人を思い出させましたし、顎のないZQNは『死霊のえじき』のDrタン、音楽が流れZQN達がフラフラそっちへ導かれるのも『ゾンビ』でしたね。

日本製ゾンビ物映画として初めての「低予算ではない」「ショぼくない」「セコくない」映画。
原作はスピリッツ連載の大人気漫画と言うメジャーレーベルの作品であり大泉洋・有村架純・長澤まさみという超売れっ子の役者さん達を配してる点からしてもう今迄とは明らかに違う、と期待(と不安)は高まる一方でした。
序盤のパニック描写、パンデミック拡大、ZQN発生、『エヴァ破』でも有りましたが人々(支配階級層?在日米軍?)が一斉に都市から逃げて行く空一面を飛行機が覆い尽くすシーンとか、日本のゾンビ物映画でこれが見たかった。
何より特筆すべきはZQNの造形とその演出。
ノロノロゾンビでも走るゾンビでもないこの『アイアム ア ヒーロー』オリジナルのZQNと言うモンスターを作り上げたと思います。
感染→変異→怪物化の手順でその人物の生前に即した特徴と能力を持ったZQNになる。
徹子(片瀬那奈)のZQNへの変異のファーストインパクトでこれは既存のゾンビ映画とは明らかに違う、単に人を食うゾンビと言うより全く別種の怪物への変身と言う描写で単なるホラーと言うより『ガンツ』の様なSFバトル物でもあり同時にゾンビホラーでもある、ZQNと言う未知の怪物とのバトルが始まる導入部としての演出が完璧に出来ていたのでこの時点で俄然期待値は高まりました。

風間トオル演じる政治家ZQNの顔が半分崩れ始めてからのタクシー内でのバトルとカーアクションのこのシーン、映画公開前のメイキング番組でヒロミ役の有村架純さんが一瞬笑っているのを、大泉洋さんに突っ込まれていたのですが「酷い状況だと思わず笑う事ってあるじゃないですか~」
的な言い訳?を有村さんはしていたのですが、原作で2人がZQNで溢れる街から脱出を計るくだりの周りが地獄と化した中で(原作では自転車2人乗り)ヒロミが「なんか笑っちゃいそう」って言ってるんですよね。
有村さんは原作を読んでた?だから敢えて一瞬笑う芝居を入れたのかなと思ったのですが。
有村架純さんは余りに売れ過ぎてて「旧ゴリ押し」「新ゴリ押し」と並びあんまり好きじゃなかったのですが、芸歴も長いし売れてるだけじゃなく色んな作品に出てるだけあって場数を踏んでるいい役者さんなのかなと思いました。

「アウトレットモール編」はゾンビ物でお馴染みの生き残った人々のコミュニティの崩壊エピソードですが、リーダー伊浦 (吉沢悠)は単なる悪役、ゾンビ物に於ける利己的で己の身勝手で皆を危険に晒す無能な支配者ではなく、頭がキレて狡猾で英雄達を危機に陥らせる状況を非常に上手く作り出しますし、ZQN化してからのその最後は英雄の初めての発砲=タイトルの「ヒーロー」となる為の重要な役割を果たしますし、サンゴ(岡田義徳)は原作と同じくクズで己の欲望丸出しの悪役の1人に違い無いのですが、こちらも又足を引っ張るだけの役立たずには決してならず最期は英雄達の為に戦って死ぬ、そしてロメロゾンビ映画の見せ場の一つである「大量のゾンビに囲まれ生きたまま貪り食われる」役、『ゾンビ』のセックスマシーン『死霊のえじき』のローズ大尉に当たる見せ場を貰った岡田義徳さんは非常に美味しい役だったなと思いました。

クライマックスのコミュニティ崩壊から脱出。
高飛びスポーツ選手ZQNが屋上に到達して一気にコミュニティ全滅から高飛びZQNを中心に人々が一斉にZQN化し立ち上がるシーンは、高飛びZQNが「魔王」と言った風格で高飛びZQNを最後の最強の敵・ラスボスとした脚本は原作改変が非常に上手くいった部分だと思います。

クライマックスの英雄vs 100体以上のZQNの群れ。
『バイオハザード』のアリスの様な「超人化した人間」ではなく飽くまでも「普通の人間」が(ほぼ)1人でこれ程大量のゾンビと戦い、しかも勝つと言う事をやった映画は初めてではないでしょうか?
大量のZQNを何とか倒したと思ったら高飛びZQN=ラスボスの登場で最終決戦のくだりはゲーム『バイオハザード』
でもお馴染みのお約束ですし、高飛びZQNを倒し脱出、車の中でのつぐみ(長澤まさみ)との会話は原作とは少し変えられていて「(英雄(えいゆう)ではなく)ただのヒデオです」と答えるのは逆説的な表現で英雄が真のヒーローとなった、と言う事なのかなと思いました。

佐藤信介監督作品は『ガンツ』と『図書館戦争』(1作目)しか見てなくて正直自分の中ではガッチャマンの監督と同じ位の意識しか無かったのですが、フィルモグラフィを見たらあの『ホッタラケ島』(フジテレビ社長が「日本のピクサーを作る!」と意気込んで制作するも大コケし日本の3Dアニメの未来を潰した広告代理店映画)の監督でもあったとは驚きました。
それが急にこんな海外の映画祭で賞を沢山取り(いえ、賞を取れば=いい作品とは言えないと思いますが)皆の評価や評判が高く実際に面白い作品を撮ってしまうとは一体何が起きたんだろう?と思ったのですが、ちゃんと予算を掛けてアクションは規制の多い日本ではなく海外ロケ、それにやっぱり「ジャニーズ」と「テレビ局」と言う日本映画にとっての最大のガン細胞を取り除けば才能ある監督はその才能をフルに発揮出来ると言う事なのでしょうか。
次作は『DEATH NOTE』との事で非常に楽しみなのですが今回のアイアム ア ヒーローくらいの出来になるか否か?は完成と公開を待たなくてはなりませんが。

中田コロリ先生の登場はモデルになった御本人・ラーメンズ片桐仁さんがそのまま演じていて非常に嬉しかったですし、その後の原作「池袋編」ではコロリ先生は主役になって大活躍するので、続編に期待したいのですが、ただ贅沢を言わせて貰えばこの最初の方のシーン、英雄の担当編集者が(おそらく)モデルの荒川良々さんじゃ無かったのが残念です。
この担当編集者はこの後の第2部へのプロローグとも言える『台湾編』で主役になるので。

日本映画でこれ程面白いクオリティの高いゾンビ物映画が出来た事に喜ぶのと同時に是非ともこれを一本だけのまぐれ・奇跡的な一作に終わらせない為に是が非でもヒットして続編につなげて欲しいですし、本作は『アイアム ア ヒーロー誕生編』とも言える作品だったので、続編での更なる展開、ヒロミと同じ「半感染者」=“来栖”の登場や人間・ZQN・来栖の三者による「パニックのその先の」物語
を今回の素晴らしい出来に匹敵するクオリティで映画化して欲しいです。
ブタブタ

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