こたつむり

天空の蜂のこたつむりのレビュー・感想・評価

天空の蜂(2015年製作の映画)
3.5
原発の是非と、父と子の物語。
あー。惜しいなあ。
と思わず天を仰ぎたくなる作品でした。

原作が東野圭吾氏ですからね。
物語の軸は申し分ないのです。原発の是非を問う舞台設定は、小説で読んだならば濃密な時間が味わえるだろうな、と想像できるほどです。特に“父と子の物語”ということで自分はターゲットど真ん中でしたからね。息子の思いに父親が気付く場面は、ぶっちゃけた話、涙腺が緩みました。

また、それを演じる役者さんたちも。
ぞろりと実力派ばかり揃っています。特に本木雅弘さんの存在感は抜群でした。あの眼力があったからこそ、本作に一本の筋が通ったと思います。また、脇を固める綾野剛さん、柄本明さん、石橋蓮司さんも素晴らしい存在感でした。

しかし、残念なことに。
この脇を固めている俳優さんたちに、主役である江口洋介さんが負けているのですね。これはご本人の瑕疵…ではなく。邦画特有の説明し過ぎる脚本の所為で、台詞回しに重みを感じないのです。だから、どうしても出演頻度が高い順に安っぽく映るわけで。とても残念な結果になっているのです。

また、この“語り過ぎ”というのは。
台詞だけではなく、場面についても言えます。過去の描写を入れ過ぎているために、人物が抱えている“想い”が薄っぺらく感じてしまうのです。こういうのは最小限にして、観客の想像力を喚起させる方が良いと思うのですけどね。しかも、最後の場面は映画オリジナル…とのことですが、蛇足の極みじゃないですかね。

ちなみに本作の監督さんは堤幸彦氏です。
賛否両論あるとは思いますが、予算と作品の方向性に合わせて演出を変えることが出来る、とても器用な御方だと思っています。そんな御方が本作のような方向性を選択した…というのは、日本人の読解力が下がってきている、というのは穿ち過ぎでありましょうか。勿論、僕も他人様のことをとやかく言える立場ではないのですが。

というわけで。
テーマとして映像化して語るべき作品であると思いますし、手に汗握る展開も素晴らしいものがありました(特に空中での場面は結果を予想できても興奮しました)。だから、映画という意識ではなく、テレビドラマの延長線上で考えれば。気軽に鑑賞できる作品として楽しめるのだと思います。

でも、本作のテーマは、軽々しく消費すべきではない、とも思うのですけど…。
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