ユーライ

GONIN サーガのユーライのレビュー・感想・評価

GONIN サーガ(2015年製作の映画)
5.0
「いい気なもんだぜ。俺達は糞と小便に塗れてるってのによ――」。ひたすら降りしきる雨。ネオンと合わせて象徴的なモチーフを石井隆は自ら「死に接近するため」と語っているが、結果的に遺作となった本作が一番死に接近している。松竹から借りて来た前作のフッテージから始まり、死に近づくためにあらゆる要素が反復されていく。再び危うい賭けに乗り出す遺児達、それを追うヒットマン二人による破綻、というプロットだけではない。時代の隔絶を如実に表すフィルムの質感の差を気にすることもなく、再利用して映画を駆動させていく様は、死に体を無理やり動かしている哀しさがある。後半に近づくにつれて、やけにフェードアウトしていく演出が目立つ。これは何某かの現場の事情だと勘繰ってしまうが、思い切って痛々しさを曝け出すことに決めたのだと思う。屍のような死なない身体を持った人物が何人も出て来るのは異様だが、明神こと竹中直人はキャリーバッグを引きずる紅次郎でもあり、死臭に集る蠅を嫌う荻原でもある。石井隆・ユニバースを背負う竹中直人が酸素ボンベを担いで死を連れて来る。往年の見る影もない根津甚八は現世にしがみ付く幽霊のように目覚めなければならないし、柄本佑はゾンビのように「紅い花」が流れるラジカセで延命しなければならない。土屋アンナと福島リラ、女同士の対決に『GONIN2』も忘れない。映画でしか生きられない身体を持った者共がダンパの底からスクリーンを飛び出してくると、銃撃戦で血の雨、まさかのスプリンクラーで室内に雨を降りしきらせながら、怨念によって死者である佐藤浩市が何故か年を重ねて画面に映ってしまう心霊現象が本当に起こる。『赤い眩暈』の諦観から見えて来る希望、のようなものはなくただ死体の山が折り重なっているだけだ。巻き戻して東京の夜景を見下ろしながら魂は海に還り、その底知れぬ黒さをカメラは映し続けて映画は終わる。誰が何と言おうと大傑作だし、当たらなかったのは間違いなく観客が悪い。当時観に行かなかった自分も含めて。
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