いののん

沈黙ーサイレンスーのいののんのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
4.3


この国は、あの当時と、さほど変わってはいない。
今だって、いたる所で、“転んだ方が楽に生きられるよ”という甘いささやきが、耳元でつぶやかれる。

お前だったらどう生きるのか?
その問いが、終始突きつけられているようで、キツい映画だった。

始まって10分か15分くらいで逃げ出したくなった。
この映画に私の心は耐えられそうもない、背徳者・敗北者の烙印を自分で自分に押すことになっても構わないから、劇場を出てしまおうと。でも、そんな気持ちの時に塚本晋也の姿に励まされ、どうにか最後まで観ることができて本当に良かった。

私はカタカナすらついに読めなくなったようで、モキチのことを途中までキモチという名前だと勘違いしていた。見終わった今も、私の心の中で、モキチはキモチとして生きている。

キチジローを弱い存在とは感じなかった。あんな風に強く生きられたらいいと思った。

これだけは絶対に譲れないという、自分の核となるものは、自分の心の中で大事に守り、できることならそれを育てていられたら、それで十分なのではないかと感じた。人がどう思おうといいじゃないか。

非寛容で、赦しあえないような、今のこの世界で、
この映画が創られたことの気高さに感謝したい。
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