Tully

世界一キライなあなたにのTullyのネタバレレビュー・内容・結末

世界一キライなあなたに(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

自分の尊厳死を自分で決めてしまった、たった31歳のおぼっちゃまのお話。正直、映画では下の世話をされる苦悩や、床ずれや発作の痛みや苦しみはほぼまるっきり語られていない。障害を持つ前の人生でいかにきらきらしていたか、いかに嫌なキャラだったかは人々の証言で語られるのみ。お金持ちだから、介護用のスタイリッシュで機能的で、プライバシーにも配慮した部屋や、同性の優秀な介護士まで専属で与えられている。頭ははっきりしているし、食べることもできる、タイピングは無理でも電子制御された車いすを自在に動かせるし、音楽や映像作品の鑑賞にも問題がない。だから、「なんでそんなに死ぬ必要があるの?」 と、普通では思ってしまう。彼より酷い状況の人も少ないながらも見てきたし、戦争や虐待や大病で心身がやられて根幹から駄目になりかけている人だっている。2年間も笑うこともなく、遊びに出かけることもなく、鬱々と過ごしてきて、主人公のおかげでやっと笑うことができるようになったのなら、普通は生きる気力を取り戻すだろう。でも、彼は 「普通」 じゃない。美形で優秀で若さ溢れる31歳の堂々としていた男性なのだ。もし、これがもともと腰の曲がった人工肛門のついた75歳なら、「まあ、仕方ないか」 になるだろう。病気で弱っている父母や妻子がいて同じように大金持ちだったら、あるいは、悪い親せきに財産を狙われていて他の家族では太刀打ちできないなどの理由があったら、嫌々でも生き抜くかもしれない。問題は、彼にはもともと余裕があって、さらに時間も可能性も残されていたということなのだ。この国で30半ばの人が疲れて大企業を辞めて中小企業に転職するのと、新卒の若者が不況で仕方なく中小に入るのと、気持ちの辛さはまるで違う。でも、そんな比較や仮定が何になるだろう。「死ぬ」 という選択肢が合法的に用意されていて、それを当人が選ぶことに、他人が関与して良いはずがない。当人の苦しみは当人にしか分かりえないし、分かったとして、その苦しみが全く死に値しないほど軽いものであったとしても、他人にどうこう言われることではない。説得やお願いはあっても、「何が正しくて何が正しくないか」 を押し付けることがあっていいはずがない。といっても、こんなお金持ちで先進的な人達にしかなせないことなんだろうな、と思う。四肢が動かせないなら、大抵の親は子供を監禁して死ぬ自由なんか与えないと思うので。私は迷信深いので、いよいよ痛みが極限まで達しなければサインできないと思う。痛みを簡単に数値化できる機械があって、それがボーダーを超えたら、医師にそっと死なせて欲しい。自分で 「今」 とは言わずに。全体的にカラフルで、人物が綺麗で魅力的で素敵でした。シリアスな現実をまざまざ描かなくて、共感は得られにくいとは思いますが、見ていて辛さがないのと、楽しみを無理やりにでも見つけることがいかに人生に必要か、思い知らされます。
Tully

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