凪

カリートの道の凪のネタバレレビュー・内容・結末

カリートの道(1993年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

映画は最初から最後まで完璧だった。

かつての麻薬王が汚れた世界から足を洗おうとするがそう上手くはいかない…。物語自体は単純で簡単に予想もつく。なのにこんなに夢中になれるとは思わなかった。特に黒いロングコートに身を包んだアル・パチーノが最高にカッコいい。

個人的ハイライトは、駅での銃撃戦、

あとは出所したカリートが、元恋人ゲイルに会いにいくシーン。彼は彼女のことを、最初は見つめているだけなんだな。バレリーナのゲイルが踊っているのを遠くのビルから眺めているだけ。街には雨が降っている。仕方なくそばにあったゴミ箱のフタで雨をしのぎながらカリートは彼女を見つめる。

かつての麻薬王がゴミ箱のフタで……なんとなく情けないシーンだなと思う。でもすごくいいシーンだ。

生粋の悪者、ギャングであること。それは今の彼にとって誇りでもあるが、コンプレックスでもあるんだろう。だからこそ、カタギである彼女に簡単には会いに行けなかった。こんな男でも好きな人に会いに行くのには勇気が必要なのかな。きっとカリートにとってゲルダは手の届かない、とても遠い存在なんだ。

そして、特にラストシーンは秀逸だった。カリートが死ぬ間際に見つめていた広告が動き出す──踊り出す海辺の女。きっとあれはゲルダなんだ。彼女は髪を揺らして踊る…そして「君は美しい」って曲が流れる。

カリートはやくざ者だ。そんなどうしようもない男が夢をみた。愛した人と平和に幸せに暮らしたい…って夢。
だが汚れた世界はそれを許さない。汚れた手は洗い流せない。中原中也の「汚れっちまった悲しみに」じゃないけど、汚れた自分の人生からは、逃れようと思ってもそう簡単にはいかないんだな。きっと。

だからこそ
「もう疲れたんだ」って最後のセリフが響く。ここに全てが集約されている気がした。

おつかれ、カリート。
多分死んでも天国も地獄もないが、
死ぬ間際くらいはパラダイスの夢をみれるといいね。
凪