ちろる

追憶と、踊りながらのちろるのレビュー・感想・評価

追憶と、踊りながら(2014年製作の映画)
3.6
レコードから流れる夜来香とまどろみのようなノスタルジックな映像が、追憶と現実を行き来している主人公たちの静止した想いとマッチして美しいオープニングはとても好きでした。

最愛の息子を亡くした中国系カンボジア人の母親ジュンと、恋人を失ったリチャード。
リチャード役のベン ウィショーの私生活を重ねたような切ない演技が胸を打ちます。

2人とも同じ男性を深く愛しながらもまったく噛み合わない想いが遣る瀬無い。
頑なにリチャードを拒絶したジュンの態度が少しずつ雪解けになるかと思いきや、少し気を許したようでまたムッとして、笑顔になったのにまた怒らせての繰り返し。

言葉や文化によるディスコミュニケーション以上に、憎しみにも似た嫉妬をリチャードに抱き続けられるジュンの頑固さに嫌気がさすし、この頑なさがどれだけ息子カイに負担を敷いてきたのかが見て取れてしまう。

正直主人リチャードの行動にも、ジュンにも共感できる人は少ないと思うので観る人を選んでしまうのではないかという疑問は残るけど、人種、文化の違い、同性愛、カミングアウト、老年期の恋、そして孤独など、わりと多くの重みのあるテーマを織り込んでいますが、暗くはなく静かに淡々に、孤独というものに向き合うジュンのラストの台詞はとても印象的でした。
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