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アンナ・カレニナのpikaのレビュー・感想・評価

アンナ・カレニナ(1935年製作の映画)
3.0
久々にアンナカレーニナ映画版を見る④
先日思い立ってウラジミール・ナボコフ著「ロシア文学講義」の「アンナ・カレーニナ」評を読んでいて、「アンナ・カレーニナ」はアンナが主役で、アンナが最重要なんだって、当たり前なんだけど、その当たり前のことに改めて気付かされたことで映画版を見るときの視点に変化があった。リョーヴィンとキティの話とアンナとヴロンスキーの話が対になり、その構成が魅力の一つになってはいても、外から見たときの魅力の真髄はアンナという存在とその心理や一挙一動にある。私は原作においてリョーヴィンの話が一番好きなので映画版を見るときにリョーヴィンパートに注目してしまってアレコレ不満を感じたりしてきたんだけど、映画という限られた表現方法では、アンナを引き立たせるための要素に絞って取捨選択するのは真っ当なことなのかもしれない。
今作はそのリョーヴィンパートは徹底的に駒扱いで、今まで見てきた中で一番ぞんざいだった笑。キャラ設定からして別人で、キティも然り、何の特徴も魅力もなく清々しいほど。
アンナにフォーカスを当ててアンナのエピソードを中心に構成されているのはどの映画版でも同じなんだけど、今作の秀でていた点は、息子のセルゲイに多くの時間を割いてたこと。個人的に息子の存在はアンナにとって大きいものだろうと考えていたのに、他の映画版ではほんのお飾り程度で処理されていて物足りなさを感じていたら、今作では全面に出していて嬉しかった。
しかもセルゲイめちゃくちゃかわいいし、母アンナとのシーンはお互い大事に思って愛し合っていることがひしひしと伝わってくるし、アンナの顛末に対してこれ以上ないくらい効いてる。
カレーニンの描写も良くて、今まで見てきたカレーニンはヴロンスキーと出会ったのを抜きにしてもなぜアンナが離れたのかの説得力が弱くて、長い原作ならまだしも時間の限られた映画では難しいのかなぁと考えていたら、短い中でも的確に説得力を生んでいて感心した。指をならせるところもちゃんとあったし。単にアンナが目につくところだけに絞って駒的に扱ってただけかもしれないけど、リョーヴィン同様、映画でならばむしろアリだなと。
ヴロンスキーはどの映画版を見ても毎度単なる若いイケメン将校でしかなくそれ以上でもそれ以下でもない感じの描かれ方をしていて、今回は友人の大尉と区別がつかないくらい凡夫として扱われてたんだけど、ナボコフはそもそも原作においても「ヴロンスキーは何の特徴も魅力もない凡夫」と評していたので、デフォルトなんだなと笑。そうなるとヴロンスキーにフォーカスを当てた「ヴロンスキーの物語」をますます見てみたくなる。

グレタ・ガルボを見たのは初めてだったんだけど、評価に違わずすげー良かった。特にあっはっはと豪快に笑う姿が愛らしい。

初っ端から無駄に長い謎の空中浮遊撮影とヴロンスキーのタフさを表現するヘンテコな演出、オヴロンスキーと汽車の迎えへと連れ立つ一連の流れは原作にないオリジナルアレンジで、奇妙なんだけど画的なインパクトはデカい笑
ダンスシーンがわりと長かったりオペラでは舞台をしっかり見せていたり、画的な派手さやエンタメ感が目立っているのは時代あるあるなのかな。

90分で描ききるための独自のアレンジは映画版それぞれ多種多様でそこが見どころのひとつ。今作は潔く原作を削ぎ落としていて、最重要ポイントであろう、アンナの顛末への説得力を息子との別離とブロンスキーの仕事への情熱に絞っている。なかなかに面白かったんだけど、最後の最後で男尊女卑っつーか、女は男の子社会的立場を考えなければならないみたいな説教が入っててちょっと引いた。アンナの最期のシーンのグレタ・ガルボの表情が良かったし、カンカンと車輪を叩く音を印象的に使ってるのも良かったんだけど、だからこそいただけない。仕方ないか。往年のハリウッド映画だし。終始トルストイの原作は筋だけの引用だった印象。
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