天豆てんまめ

暮れ逢いの天豆てんまめのレビュー・感想・評価

暮れ逢い(2013年製作の映画)
3.2
パトリス・ルコントの熟成された美学をじっくりと嗜む。
サスペンスフルな冒頭音楽から引き込まれるが、映像も微妙に不可思議さを感じさせる。人物へのカメラワークがカクカク、グググっと不自然なズームインを連発し、心理描写の揺れを観客に同化させているかのよう。

リチャード・マッデンの青臭いストレートな感情表現。
彼を想う元々の彼女のシャノン・ターベットも可愛らしい。
そして貴婦人レベッカ・ホールの気品のある魅力。
富豪アラン・リックマンのじとっとした眼差し。

リチャード・マッデンとレベッカ・ホールの抑えつつも、
盛り上がっていく気持ちを、目と目の交わしで表現していく。

仕立てのよい調度品。美しい背景美術。品のある衣装。
そして音響設計が素晴らしい。紅茶を注ぐ音。ピアノを
奏でる音。小鳥のさえずり。木々の揺れ。バイオリンの音色。
この映画は音響もまた主役と言える美学に包まれている。

アラン・リックマンは、妻が若者に魅かれていく様子を
ただ、じとっと窓際から眺めている。気づいているのか、
そうでないのか、嫉妬しているのか、していないのか、
微妙なラインでざわめきが深くなる。

彼は重い病に侵されている富豪社長だが「人生は楽しむものだ。生きているうちに」という言葉が沁みる。

中盤からは戦争という時代背景が進み、切ない展開が深まるが「不在」と「想い」が絡み合い、変化していく様子を丁寧に
見せている。「時間」の重さと怖さもじわじわと迫る。

この作品はレベッカ・ホールの繊細な感情の表現、変化を、ルコント映像・音響世界を堪能しながら味わうのが一興だと思う。