にょいりん

この国の空のにょいりんのレビュー・感想・評価

この国の空(2015年製作の映画)
4.0
これは笑わせようとしているのか?それとも本気なんだろうか?と思う微妙な演出が各所にあり、ラストシーンもちょっとこれは、、、、となりましたが、そんな事より二階堂ふみ演じるヒロイン里子の劇中に次第に艶やかになっていく魅力が上回っていた。

里子だけが小津映画のヒロインのような上品な口調で話していて、戦時中でありながらも可愛くありたいと思う里子の少女性が違和感として現れているようで良かった。戦時下という抑制された日常と、恋した隣人の男には妻子がいるという状況は二重の枷となり里子を悶々とさせる。その悶々が溢れそうになって畳をゴロゴロする場面と悶々がついに溢れて訳が分からくなり夜中にトマトをもいで隣人の男に持ってゆき食べさせる場面のそれぞれのしっとりとした表情、それだけでこの映画は観る価値がある。また、男が机に食べこぼしたお菓子のカスをずっと手で拾い集めている場面は揺れる少女性が完全に女に振れていてこれまたしっとりしていた。

長谷川博己のヘビっぽい目つきや身のこなしもいい意味で気持ち悪くて良かったけど、兵役でとられて若い男がいないという特異な状況で唯一里子が愛せた相手はもっと見た目のだらしないおじさんだった方が、より里子の少女性にとって絶望的な状況である事を感じられたと思う。

同じ日に『野火』を観たけれど、あちらでは前線のジャングルで空腹が男達を極限まで狂わせ、この映画ではその男達がいなくなった本土で悶々とする少女性が揺れ動き、太平洋戦争をいろんな視点で観れて良かった。