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天使のはらわた 名美のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

天使のはらわた 名美(1979年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

 なんだ、よくあるピンク映画じゃないか。そう思ったら大間違い、どんでん返し食らう。

 執拗に追うカメラが暴く性への欲望。これはピンク映画の定石と思って見ていた。しかし、そもそもこの"執拗な目が追い詰め曝け出させる"という欲望の暴力性がチャラになるわけではない。この歪な視点への懐疑が今作である。名美は女性なのに、惜しげも無くレイプ被害者のその後の生活をスクープする三文雑誌の記者だった。「そういう時代なのか?にしても酷い倫理観…」と最速主人公の視点に疑問を持つも(被害者を抱きしめて羽交い締め、あげく「なんで話してくれないんですか?」と逆ギレ)、特段誰も疑ってかかる人物もいないので、次第に”時代のせい”として片付けてていた。しかし、それは壮大な前振りだったのだ。それは我々がちょうど名美の視点と同期しだした頃合いであり、我々は自身の考えが如何に歪かを糾弾される。ちょっと前振りにしては長いけれど。

 だからこそ、あの被害者のナースの絶望を追体験していくシーンは白眉だ。取り返しのつかなかった回想話と、同時にどんどん取り返しがつかなくなってくる名美に訪れるサスペンス。というか、このナースが受けた被害はほぼサイコホラーなので衝撃的だ(モルグで死体の中で…怖いというか生理的な嫌悪)。そして回想と現時点での名美の状況がリンクし、ナースは同じ加害を共有しようとする。恐怖より、違和感のあった主人公が因果応報劇として復讐されることの方に気持ちが向く。いつしか復讐劇へとのめり込む。
 
「それで、この結末は?」
 ナースから逃れた後、最終号に間に合わせるため、同業の村木に口述筆記を頼むも、名美の口から結末は明かされない。そして次の日、崩壊する名美の心が書かせたその原稿通りの悪夢が繰り広げられる。田中登作品は価値観が転倒する時、世界の色そのものが変貌をとげてしまうという効果を使う。今作では名美の心の崩壊とともに空は真っ赤に染め上げられる。名美が股を開くと、そこが煌々と輝いている。太陽肛門ならぬ太陽ヴァギナだ。照らし出される赤く染まった世界では、名美は社員から糾弾される、原稿通りに。この襲い来る社員らの”平行移動”の不気味な圧と滑稽さはこの映画が只者じゃなかったことを証明する。また、書いたことと同期して現実が展開されるというのは、ナースがしたことを倣ったとも言える。時折挟まる、様々な場所で服が引き剥がされ打ち拉がれている名美の映像。その場所はかつてのレイプ事件があったその場なのだ。名美は、彼女らを理解した。赤く染める太陽になった彼女が照らし曝け出すのは、今度は記者たち側なのだ。名美は、唯一親身になっていた村木を幻想の中で刺す(彼女の瞳には烏合の衆はおらず、村木だけが反射していたというのに!)。
「それで、この結末は?」に返事がなかったのは、村木に伝えられないことであるからだ。現実が不意に戻る、村木がくる、名美はしかし、彼を刺す(妄想と現実を結んでしまう)。そして世界はモノクロになってしまったのだった。

 男女が交わる時、常に雨が降っていた。
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