パイルD3

ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画のパイルD3のレビュー・感想・評価

3.5
“オレゴンの土と風の伝道師“と呼びたいケリー・ライカート監督長編第5作は、意外な切り口の犯罪映画。
ただ、舞台はブレることなくオレゴンです。土と風の匂いがします。

意外な切り口なのは、過激な自然保護主義者の若い男女による行き過ぎた犯罪というところ。
彼らは元ムショ入りしていた爆薬のプロを仲間に入れて、文字通りダム爆破を実行する。
原題の「NIGHT MOVES」は、主人公たちが購入した犯罪に使うボートの名前。

もちろんこんな犯罪の手順を見せるのが、ライカート監督の主眼では無い。この監督は観客の思いに易々と歩調を合わせてくれない人なのだ。
手強いというのか、ややこしいというのか、あるいは両方か、常識にかからないのがオレゴンの伝道師ライカート監督の真骨頂。

犯罪を犯した後の心理、つきまとう罪悪感といたたまれない緊張、それが極度のストレスとなって精神崩壊していく様を見せる。

このメンタルぶっ壊れのプロセスを、いくつかの作品で繰り返し描いているが、以前どこかで書いたように、ライカート監督はベルギー生まれの、同じく女性映像作家のシャンタル・アケルマンをリスペクトしていて、代表作の「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」(75)から強い影響を受けている。

「ジャンヌ〜」は、冷淡とも言える視点で、主婦の繰り返す日常といつしか忍び寄る精神崩壊を描いた作品で、ライカート映画の骨子にはこの流れと呼吸が息づいている。
独特の間延びとも言えるユルい間合いも、明らかにこの作品の大きな影響だと思われる。

そして今回も、犯罪によって歪みゆく自滅の姿と崩壊が息苦しく展開する。
犯罪映画の形を借りた日常崩壊の映画であり、他のライカート作品にも通じる人が生きる中で避けられない、いつしか衝突しているストレスの存在をさりげなく描く。

それは誰もが感染する風邪のウイルスみたいなもので、たとえ自力で防御はしていても、他力によって隙をついて体内に入り込んでくる厄介者だとでも言いたいようだ。


※そんなわけで
年末はケリー・ライカート色に染まり切りました。この濃厚なオレゴン色が抜けるのか心配です…。
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