ちろる

誰のせいでもないのちろるのレビュー・感想・評価

誰のせいでもない(2015年製作の映画)
3.8
ちょっとした気持ちの穴が、すべてを狂わせる。
人間、希望を持つから傷ついてしまう。
繊細に紡いでいたはずの人生がとある事故で台無しになって、全ての歯車がぐちゃぐちゃなって、それでも時は容赦なく過ぎる。
「誰のせいでもない」と言われて、安心して過去を捨てた訳ではない。
でも、誰かを不幸にしてしまったことをずっと引きずっていることはあまりに苦しすぎる。
そんな絡み合った糸の中で生きる主人公が、関わる3人の女。
彼女たちの描写がまたなんだかゾワゾワする。
レイチェル マクアダムス演じる事故前からの恋人は子供を作りたくないトマスと未来予想図がすれ違い別れを選ぶ事となる。
事故でトマスに息子を奪われたシャルロット ゲンズブール演じるシングルマザーは、トマスを責めることなく2人はさりげなく惹かれ合うが、互いの境遇がそれを許さない。
結局トマスは一番適当な、シングルマザーの編集者と結婚して作家としても再起するのだけど、足かせのように過去の出来事がまとわりつく。
皮肉なのは父親になりたくなくて恋人と別れた男が、否応なしに父親の役割を果たす運命になっていくことである。
これらは事故も含めて仕組まれた運命なのだろうか。
サスペンス調な始まりから、瞬く間に月日を加速させて、罪を背負っても、悲しみを負っても否応なしに人生とは行くべきところにどうにもこうにも落ち着いてしまうのだ。と、この物語は見せていく。
何がどうするのが一番よかったのかは分からないけれど、死にたくなるほどに辛い傷も、触らなければ静かに覆われて隠されるということを知る。
ただし、傷跡が全くなくなる訳ではないのだから覆われたものを掘り起こすのも実に簡単である。
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