岩嵜修平

幕が上がるの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

幕が上がる(2015年製作の映画)
3.7
全ての演劇好き必見!自分史上最高のアイドルムービー。

アイドルが出る映画を毛嫌いする人ほど観るべき。素晴らしい映画でした。
学生演劇、青春映画、アイドル映画、本広監督作品、平田オリザ原作、喜安浩平脚本など、語るべきポイントが多すぎるけど、自分では語ることが出来ないので、他に譲るとして。

失礼だけど、アイドルが主演の映画とは思えない、見事に完成された映画でした。

落ちこぼれの演劇部メンバーが、1人の教師の登場により、団結し、成長し、様々なトラブルに見舞われながらも、輝ける未来に進んでいくという物語の流れは、あるあるですが、間に挟まれる一つ一つの会話や稽古風景が素晴らしい。

テレビで観る限りでは、あまり演技している印象のない、ももいろクローバーZのメンバー1人1人が、しっかりと、その人生を生きている。というか、そのままのキャラなんじゃなかろうか。ファンでは無い自分には、劇中で稽古の1手法として提示される「肖像画」そのままに、メンバー全員が元々持つ性質を投影した役柄に見えた。

最初は、テレビでよく観る彼女たち、そのままの画がスクリーンに映し出されることに違和感というか、キラキラ感に拒絶反応すらあったのだけれど、物語が進むにつれ、のめり込めるようになり。

高校時代ならではの、甘酸っぱいコミュニケーションに、ドキドキしながらもエンディングまで飽きることなく楽しめました。

キャスティングが素晴らしい。ももクロはアテ書きだとしても、あの先生役に黒木華を配したところに、本広監督の演劇愛を感じる。

高校からずっと演劇を続け、野田秀樹作品のオーディションでデビューした黒木華。
あの役には、生徒たちの視線に近い若さと、一つの演技で圧倒的な存在感を見せる演技力が必要。それに、演劇畑で育った経歴という条件が加わることで、演劇ファンをも唸らせる。スクリーンで観られる若手俳優で数少ない逸材のキャスティングに成功した時点で、この作品は5億点。
ムロツヨシも良かった。いつも通りなのだけど、薬味のようなアクセントに。

過去作『サマータイムマシーンブルース』はヨーロッパ企画による舞台がベースだったり、ご自身が実際に舞台を演出したりと、演劇にドップリと浸かってきた本広監督ならではの演劇愛に溢れた演出で。
しかも、脚本の喜安浩平(傑作「桐島、部活やめるってよ』の脚本家)も、ナイロン100℃含めガッツリ演劇畑の方。演劇慣れしていない人には分かりにくい演劇的表現を見事に翻訳してくれました。

これこそが、本広監督が本当にやりたかった作品なんじゃないかな。

『UDON』などの小ネタはやり過ぎで少し寒かったし、モノローグの過剰さは頂けなかったけど、大きな事件が無くても、しっかりドラマは描けることは証明してくれた。ラストシーンの美しさは一見の価値ありです。

『踊る大捜査線』の新作はもう要らないけど、この流れで、他の、演劇をテーマにした作品はもっと観たいなぁ。
岩嵜修平

岩嵜修平