静かな鳥

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォーの静かな鳥のレビュー・感想・評価

3.2
最初に言っておかなければならないのだが、自分はマーベル作品に少なからず苦手意識がある。DC作品も同様なので、そもそもスーパーヒーローものとあまり反りが合わないみたいだ。申し訳ない。それ故にこれまでのMCU全18作品の内、観たことがあるのは6作品のみ。
ただそんな自分でも、本作がMCUを今まで追い続けてきた人たちにとって、如何に途轍もない意味を持つ作品かというのは、Filmarksを覗けば察することが出来た。ヒーローたちが(ほぼ)全員集合し、サノスと闘う。MCUが10年間かけて構築してきた物語の流れ全てが「本作に向かっていた」と言っても過言ではない、集大成の一本だろう。その決定的瞬間を(苦手とはいえ)映画館で見逃すのは、あまりにも惜しい。まぁある種のミーハー心理と思われても仕方ないが、やはりこの"祭り"の輪に自分もちょっとお邪魔したい。そういった経緯で鑑賞した。

まず、あまりにも多いキャラクターたちを出番の配分が偏らないようにバランス良く物語の中に配置し、加えてそれぞれの魅力と役割が最大限に活かされているのが素晴らしい。さらに、それを2時間半強に収めてしまうのには舌を巻く(3時間以上にはしないのがマーベルの良心?)。このような事が見事に為せるのも、過去作の積み重ねの流れで、一人一人のキャラの確立が丁寧に行われているからこそだ。この辺りは、ケヴィン・ファイギの手腕な気がする。

初見のキャラがいたとしても、マーベルは抜かりない。自分は、バナー(ハルク)とは本作で「はじめまして」だったのだが、いつの間にか彼に馴染んでいた。そもそも彼は「久しぶりに地球に戻ってきたので最近のアベンジャーズ事情を知らない」設定なので、マーベル詳しくない自分としては妙に親近感を覚える。仲間から話を聞く度に、えっ初耳なんですけど…みたいにびっくりしているのが微笑ましい。

あとは何と言っても、ガーディアンズの面々の安心感・安定感だろう。その前の場面のあまりにも深刻なムードから、ゴギゲンな洋楽が流れだし"SPACE"とテロップが出るだけで、物語のギアをチェンジさせられるその存在感!(場所を示すテロップもシンプルながらカッコいい)。彼らの愉快な会話も(ちょっと狙い過ぎている気がしないでもないが)ジェームズ・ガンの感じがしっかり踏襲されていて、そこだけ見ればまるで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』のよう。そういえば、前述のシーンに限らず、作品全体的にシリアスとユーモアの落差に驚かされることが何度かあった。劇場に観客の笑い声が響いた直後、皆が衝撃の展開に息を呑む…といった光景を数回見た。

しかも、そのキャラクターたちをただただ「登場させる」だけでなく、個々のシリーズで手堅く描かれてきた彼らの葛藤・成長などのドラマを踏まえた上で、その「続き」として魅せる場面が多い。トニーがピーターに「君もアベンジャーズだ」と言うことの重み。反抗期気味だったグルートが、自分の腕を切ってアレが完成する瞬間。こういった要素の数々は、これまでの彼らを見守ってきたファンの方々にとっては堪らないのではないか。
ピーターがバスに乗っている初登場シーンだけ『ホームカミング』感が炸裂しているのとか、テーマ曲と共にキャップが暗がりから現れるのとかも問答無用でアガってしまう。

ストーリーは色々混線状態で時系列が良く分からない箇所もあるし、話し合いのシーンになると途端に画が平坦になって物足りない。が、複数の場所を舞台に登場人物らを交錯させながらも「そこまで混乱しない程度の適度な複雑さ」になっているのが良い。ヒーローたちの連携によるアクションも、カット割りが荒く動線がよく分からないシーンがなくはないが、見せ方が多種多様で飽きさせない。序盤のアイアンマン&ストレンジとか、ストレンジのワープ機能を利用しながら闘うスパイダーマンとかアツい。

そんなマーベルヒーローたちに立ちはだかる最大の敵、サノスの造形も「最強」という触書き以上の手強さを見せながらも、単なる悪役の枠組みに囚われないキャラになっている(だが涙を流すのはちょっと露骨過ぎて、作り手の意図が見え透いてしまうのが勿体ない。何か他の表現方法はなかったものか)。中盤、子分たちは意外にショボく感じたが、それも裏を返せばサノスの絶対的な強さを強調する。

だからこそ、本作は従来の作品と異なり「本当にアベンジャーズは勝てないのではないか」という不安を終始観客に纏わりつかせ、絶望を冒頭から匂わせる。"ヴィランをヒーローが倒す"という「お約束」さえ通用しなくなるラストの展開は、続き物だからこそ可能な強みであると同時に、サノスという悪役の恐ろしさを一層引き立てるものだ。1人vs.大人数ではどうしても「1人」の方が目立ってしまうが、それを逆に利用した巧みなプロット。彼は本作において、ある意味では主人公なのだ。よって、エンドロール後に映るあの一文の主語は"Avengers"ではなく"Thanos"でなのであり、鑑賞後にはサノス自身と同じく、何処か充足感が残る。

しかし、シリーズものなのだしこれ1つだけでは語れない作品であるのは間違いないのだが、そういったこととは関係なく「1本の映画」として映画的快感を感じるシーンがあったか、と問われると首を捻る。作品全てがシリーズをこれからへと繋げる為、物語をただ語る為だけに存在しているようにしか見えなかった。「映画」を映画たらしめるのは、物語から逸脱した言葉にならない瞬間を捉えたときだと自分は思うのだが、本作では映画が物語に従属している、つまり"映画である意味"をあまり感じられなかったのだ。
マーベル作品群は、さっきも書いたようにキャラ描写の構築度やストーリーの背景の緻密さも圧倒的。物語を越えた映画的愉しさを描き出せるポテンシャルは十二分にあると思う。故に、個人的にはストーリー云々の「その先」を見せてほしかった。

とはいえ公開初日、MCUファンぽい人が多め、率直なリアクションを即座にとってくれる外国人の観客もちらほら、という環境で鑑賞できたのは良かったなと思う。物語に一喜一憂する彼らの反応を見て、マーベル作品がどれだけ多くの人に愛されているのかを肌で感じられた。今の時代、これ程までに世界中で熱狂を巻き起こせるシリーズって類がないのではないか。これからの映画業界を活気づけてくれる希望のような存在だと思うので、これからMCUがどのような景色を観客に見せてくれるのか、期待は絶えない。



※コメント欄にネタバレありで追記しました。
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