Utopia

スポットライト 世紀のスクープのUtopiaのレビュー・感想・評価

4.5
カトリック教の神父による児童への性虐待という、聖職者にあるまじき信じ難いスキャンダルは、当初個人だけの追求であった筈が芋づる式に複数の対象、さらには組織全体までもが隠蔽に関与したという事実が発覚。

事件の真相を暴いていく展開にはミステリー性のあるスリリングさを覚えつつも、事実であるという事に言わずもがな嫌悪感を覚えずにはいられない。物語が進むにつれ事の重大さは想像の遥か上を行っており、記者同様に絶句する他ない。

事件を調べる発端となるのは記者たちが勤めるボストンクラブ新聞社の新しい編集長が親会社より出向されたからである。冒頭のシーンで退職者へのスピーチや、新任編集長のウワサをするあたりは、報道機関ならずともどんな職場に勤める人も身に覚えのある事でマイケル・キートン扮する記者たちに親近感を持つキッカケとなる。

その新任編集長はボストンの野球に興味も無く、ユダヤ人であるためカトリック教とは縁も無い。いわゆるよそ者であるバロン編集長はかつてボストンクラブが過去に記事にした性虐待を再度取り上げようとする。古参の記者たちが重箱の隅を突かれたように苦い表情をする中でスポットライトのコラムを担当する少数精鋭のチームに白羽の矢が立つ。

戸惑いを覚えつつ、被害者や弁護士への取材を重ねるなか、いつしか日夜を問わず調査にのめり込むのは職務に忠実なのではなく、地元への愛や自身の無関心でいた過去への後悔から来るものだと見えてくる。

舞台となるボストンといえばアメリカ有数の大都市ではあるものも、NYやLAのように地方の人が集う場所ではなく、地元で生まれた人が地元で生活していくイメージが個人的には強くある。実際に登場人物はボストン出身が多く、また全員が幼少時には教会に通っていた慣習もあるカトリック教徒でもあった。とりわけマイケル・キートンが演じた鬼の新聞記者と言われたロビーに至っては在籍した高校が職場の向かいにあることの事で、知り合いも多く地元への愛着もひときわ強いだけに今回の事件は許せないのだろう。街全体に潜む隠蔽体質に警鐘を鳴らし、時には決定的な証拠すらも温存し強大なる組織へ立ち向かおう。

宗教が生活に根差している、というのは日本に生活している限り実感のない事ではあるが、強者弱者の力関係が発生する組織間で閉鎖的な隠蔽が行われるのは何も教会だけに足らず学校や会社といった身近な空間で日常的に蔓延していることであり、見方を変えれば誰にでも起こり得る危機でもある。

神父の性虐待ということで教会を槍玉に挙げつつも、信仰の否定はせず善たる部分も抑えることで、宗教の持つ複雑性を描くことも忘れていない。

ネット全盛に突入する直前の少しアナログな時代。記者たちが取材ではペンを必死に走らせる姿が何度も挿入されており印象に残った。指先から迸るジャーナリズムに今薄れつつある何かを思う。
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