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あんのKUBOのレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
4.5
私は樹木希林が好きだ。若い頃はそのアクの強さが邪魔をしていた気もするが、演技力が匠の域に達した今では、本物以上にリアルを感じさせてくれる女優さんになった。「我が母の記」も私の大好きな作品のひとつだが、この「あん」も My Favorite の仲間入りを果たした。

まず新宿武蔵野館、平日昼間の興行で、満席を通り越して「立ち見」がいっぱいなのにビックリ! 長らくこんな光景はお目にかかったことがない! 都内2館じゃ少なすぎるでしょ!

小さな町のどら焼き屋のバイト募集を見て、ふらっと現れたおばあさんの「あん」から物語は始まる。餡を作ることが、働くことがとっても楽しそうなかわいいおばあちゃん。お店も繁盛して順風満帆か?と思いきや…。

適切な治療が行われていれば感染の心配はないのだが、戦後からずっと隔離された生活を余儀なくされてきたハンセン氏病患者の謂れなき差別と偏見は今尚続く。今やカンヌの常連となった河瀬直美監督は、この作品でこの「ハンセン氏病」の物語をかなりストレートに描いている。私は河瀬直美というと「わかりにくい」「真剣に見ても寝る」という情けない印象だったのだが、今作は初めて河瀬直美が万人に見やすく、わかりやすくテーマを伝えようとした作品だろう。

前述した主演の樹木希林はもちろん、生きる意味を見いだせずにいる店長の永瀬正敏もいい。どら焼き屋の常連役として樹木希林と共演を果たした内田伽羅も自然な演技に交換が持てる。
小豆を洗う音、落葉が風で舞う音など、「音」も効果的だ。
終盤は劇場内にすすり泣く声も。笑って、泣いて、見終わった後に深いテーマが心に残る。
この「あん」は2015年を代表する素晴らしい作品である。

私の大好きな宮古島にもハンセン氏病の療養施設「南静園」があり、昨年はお祭りにも参加させてもらいました。1日も早く偏見や差別がなくなるようにと改めて思いました。
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