ブタブタ

怒りのブタブタのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
5.0
『セブン』のジョン・ドゥの部屋。
現代アートの様な狂った内装。
一室には壁一面の大量のノートとそこにビッシリと書かれた日記とも詩や創作文ともつかない之また大量の文章。
その1頁。
「我々は病める何とくだらない操り人形だ。
その舞台は薄汚い。
ひたすら踊ったりファックしたり周りを顧みない何の値打ちもない存在。
世を気にせず、己を知らず、性に興ずる楽しさよ。
道を踏み外した我ら。
今日地下鉄で1人の男が話しかけてきた。
寂しい男の、つまらない天気や何かの話だ。
愛想よく相槌を打っていたが、余りのくだらなさに頭痛がしてきた。
思わず突然、その男にゲロを吐きかけた。
男は怒ったが、私は笑いが止まらなかった...」

『セブン』は七つの大罪になぞった七つの殺人、最後は「憤怒」で終わるが『怒り』は憤怒=「怒り」で始まり、そして又「怒り」で終わる。

『怒り』でも「八王子夫婦殺害事件」の容疑者の部屋に踏み込んだ刑事2人はゴミやチラシ、壁に書き殴った言葉で埋め尽くされた異様な空間を目の当たりにする。
壁に書かれた文。
「顔を真っ赤にして駅員に詰め寄る男」
「時給800円のコンビニ店員にネチネチと文句を言う夫婦」

ジョン・ドゥは神の言葉を聞いて、腐った世界に神の代行者として裁きを下すと言ってましたが、この現代日本もソドムとゴモラの街の様相を呈していると、決して大袈裟でなくそう感じます(別に危ない思想の持ち主ではありません(笑))

貧困やLGBT差別、非正規雇用に介護問題、更には沖縄基地問題etc……この国が直面している社会問題が数々が描かれていて、それに対し怒りの声を上げる人、どうにも出来ない人、様々な人々の苦悩が描かれています。

ジョン・ドゥの様に崇高な目的(?)等なくとも社会から疎外され理不尽な扱いを受け続けた結果ジョン・ドゥの様な殺人鬼が生まれてしまう恐怖を感じました。

原作未読、事前情報もなるべく入れずに鑑賞。

「世田谷一家殺害事件」と犯人が整形で顔を変え逃亡していた「英語講師殺害事件」そして被害者の殺害された状況など「光市母子殺害事件」も元になっているかと思います。

三つの話しは実は時間がズレていて(某映画を見たせいで)顔を整形した1人の人間による物かとも思ったり、また犯人は3人の誰でもない、と言う結末もあるかなと思ってしまいました。

近鉄の駅で起きた車掌が客に取り囲まれ恫喝と暴行(同然だと思う)の果てに線路に飛び降りた事件。
あの出来事を思い出しました。
タイトルの「怒り」は本来なら自分を虐げるモノ、不当に扱うモノ「国家」「米兵」「会社」そして、お客様は神様等と勘違いしている「客」など、そういった物にぶつけなければならないのにそれらはどうにもならないモノとして眼前に横たわっており、怒りの矛先は自分より弱い者あるいは自分にほんの少し親切にしてくれた人等に向かってしまう。
夫婦を殺害した犯人も長年ただひたすら真面目に働いて来て社会から不当に扱われる事で徐々に何かが壊れていったのか、その果てに特にこれといった理由もなくあんな酷い事件を起こしたのだと感じました。

台詞のあるシーンはワンカットだけ、しかも遠景で殆ど顔も映らない辰哉(佐々本宝)の父親。
仕事そっちのけで沖縄基地反対のデモに参加して息子に「こんな事しても無駄」と馬鹿にされている辰哉の父親だけが唯一この物語の中で正当な「怒り」の声を上げていたのだと思います。

三つの話しはそれぞれ「怒り」「許し」「信じる」でしょうか。

オマケ(ºωº)
愛子役の宮崎あおいさんがとにかく素晴らしかったです。
汚れ役とか安易な形容では言い尽くせない、俗にまみれ汚れているのに美しい「聖女」を演じきったと思います。
この役の為に7キロ増量したと記事を見ましたが、アレで7キロ増量とは女優さんて本当に細いんだなと思いました(笑)
それと広瀬すずさんですが、皆さん絶賛してますが今の所芝居が何やっても同じにしか見えなくて...













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