ユースケ

シン・ゴジラのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ゴジラが…変態した…

北村龍平が【ゴジラ】シリーズにトドメを刺した【ゴジラ FINAL WARS】から12年。これまでの【ゴジラ】シリーズを全て無かった事にし、怪獣の存在しない現実世界を舞台に、政府と怪獣の戦いを描いた【ゴジラ】シリーズ第29弾は、庵野秀明の作家性(【エヴァンゲリオン】)と樋口真嗣の特撮(特撮だけで充分ですよ!)が炸裂した【ゴジラ】の皮を被った【エヴァンゲリオン】。特撮とCGが見事な融合を果たした東宝特撮怪獣の新たなスタンダードの誕生です。

みどころは、お役所仕事に徹して役に立たない閣僚&官僚やなかなか兵器を使用できず役に立たない自衛隊を尻目に超法規的な作戦でゴジラに戦い挑む寄せ集めのはみ出し者チームの活躍。
クライマックスのエンターテインメントが爆発する【エヴァンゲリオン】のヤシマ作戦を思わせるヤシオリ作戦にテンション上がりまくり。それまでのリアルな展開をぶっ飛ばすトンデモ展開なのに、それまでのリアリティの積み重ねが溜めになり、絶妙なバランスに仕上がっております。

更に、【巨神兵東京に現わる】で見せた大破壊を超えるゴジラの放射熱線は必見。火の海と化した首都東京が醸し出す絶望感にシビれっぱなし。ちょっとCGがショボいところはありますが、ハリウッドの何十分の一しか予算を使えない日本映画でもこれだけ出来れば充分ですよ。【アイ・アム・ア・ヒーロー】同様TV局が介入しない方が良い作品が生まれる事も確信しました。

ゴジラという非現実的な存在を自然災害という現実的な自然災害として捉え、政府の対応をドキュメンタリー・タッチで描いた本作のテーマは福島第一原子力発電所事故のリターンマッチ。放射能汚染の映像はまさに東日本大震災で経験した恐怖そのものだし、血液凝固剤によって活動休止したゴジラは原発そのもの。テーマを理解した上で鑑賞するとより楽しめる作品だと思います。

本作を「【エヴァンゲリオン】過ぎる」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、【エヴァンゲリオン】自体が東宝特撮怪獣のオマージュから出来た作品なのです。葛城ミサトで惣流・アスカ・ラングレーな石原さとみ演じるカヨコ・アン・パタースン共々そこんとこヨロシクお願いします。

ヤシマ作戦…源平合戦で那須与一が扇を射る逸話から名付けられた作戦。
ヤシオリ作戦…日本書紀で須佐之男命(スサノオノミコト)が八塩折之酒(ヤシオオリノサケ)を使って八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治した逸話から名付けられた作戦。

ちなみに、プレジャーボートの船名グローリー丸は初代【ゴジラ】でゴジラに襲撃された栄光丸へのオマージュ、船籍番号MJG15041は【マイティジャック】の万能戦艦マイティ号(通称MJ号)へのオマージュ、そして、船内に置かれた眼鏡は本作に多大な影響を与えた【日本のいちばん長い日】の監督である岡本喜八へのオマージュです。牧悟郎さんの写真が岡本喜八さんだったので間違いありません。

ゴジラの正体について…
ゴジラの正体は東京湾羽田沖で漂流するプレジャーボートから姿をくらました元・城南大学統合生物学教授の牧悟郎さんだと思われます。
放射線病によって最愛の妻を失い、放射線の完全な無害化の研究に取り憑かれ、日本の学会を追われた彼が、アメリカに渡り、超高濃度の放射線環境下で生存し、放射性物質を摂取してエネルギーにする特異な生態を持つ新種の古代海洋生物を発見し、彼の故郷である大戸島に伝わる神の化身・呉爾羅からゴジラ(GODZILLA)と名付け、帰国後、原子力エネルギーを持て余し、いたずらに放射性物質を生み出し続けた人類と最愛の妻を見殺しにした日本にゴジラ(GODZILLA)と融合し、戦いを挑んだのです。
船内にあった揃えられた靴と宮沢賢治の詩集【春と修羅】は彼が怒りによって修羅=ゴジラ(GODZILLA)になった事の証だと思われます。