片腕マシンボーイ

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲の片腕マシンボーイのレビュー・感想・評価

4.7
カンヌ、ベルリン、ベネチア
なんだったらこのさいオスカーでもいい
ハーゲンを演じたワンコロに主演ワン優賞を!
なんて思いながら観てたんすけど
パンフレット見たらカンヌでパルムドッグ賞を受賞してるんすね!
さすがカンヌ、主演ワン優賞よりパルムドッグのがかっけぇ!
もうこのワンコロの演技が超スゴイんす!
甘え、喜び、悲しみ、恐怖、狂気、怒り、あらゆる感情を言葉無しに表情と所作だけでここまで巧みに演じることができる役者は人間にもまぁ見たことがない
全てのワンコロ好きに観てもらいたい映画である!

が!たんなるワンコロかわいい映画ではないので覚悟が必要だ
ワンコロ版「猿の惑星」だなんて例えられるが
「猿の惑星」よりも数段壮絶
気楽に観られるファンタジーではない
映倫はR12指定だが気の弱い中学生ならトラウマになりそう
「最愛の友から、身勝手な人間たちへ」
タイトルは宗教映画っぽくて好きになれないがキャッチコピーは秀逸
正直ワンコロの集団が街を疾走する予告編を観て
わ〜い!ワンコロ映画だ〜!
って観に行った身としては思いがけず重くてキツかった

人間とワンコロとの関係は時に友であり、時に仕事のパートナーであり家族であり
太古の時代から互いに切っても切れない関係だった
しかし、人間の文明が栄えると共にワンコロの自由は人間により失われ対等な立場どころか
ワンコロは人間によって敷かれたルールの中でしか生きることを許されず
そこからはみ出した者は容赦ない制裁を与えられるようになる

この映画には胸糞シーンが山のように出てくる
雑種には税金がかけられたから捨ててしまえ
野良ワンコロは駆除しろ
大きなワンコロだし鍛えれば闘ワンコロで使えるかも?
主人公ハーゲンは元々おとなしく優しい心の持ち主
しかし無数の人間から数々の悪意を向けられたことにより秘められた野生が呼び覚まされ
人間に対する敵意が心の中の優しさに取って変わってしまう
その敵意が小さな胸から溢れ出した時、最愛の友は最悪の敵となり人間に襲いかかる

そもそもワンコロの戦闘能力なんてもんは本気になれば小型ワンコロでさえ人間なんかより遥かに高く
大型ワンコロなればヒョードルでもメイフェザーでも世界最強の男セガールでも敵わない
ワンコロが敵と化した時、それは血で血を洗う争いとなり人間にとってもワンコロにとっても地獄のようなありさまになるだろう

動物後進国と言われる日本
この作品を遠いハンガリーの作品だからと馬鹿にしてはいられません
最愛の友人と共生していくための人にもワンコロにも優しい社会の創造が急務だと感じます

ちなみに僕がこの作品で1番胸糞だったのが
人間側の主人公の少女の父親が税金がかかるからという理由でハーゲンを捨てるんです
それがきっかけで少女はグレて補導されるんですが
その時になって自分の過ちに気づいたのか泣いて少女に謝りながら
「新しい犬を買いに行こう」
って言うんです!
少女にとって兄弟であり親友だったハーゲンを捨てておいて
新しい家族を買いに行こうってマヂキチガイにしか見えませんでした…

人間の敵となって再び少女の前に現れたハーゲン
あの結末のあとどう物語は続いていくのか?
あまり幸せな想像ができず胸が苦しい

あぁ、久しぶりに泣ける映画に出会った
苦しい作品ですが衝撃的な愛の物語
ワンコロが反乱を起こすスペクタクルシーンも迫力でオススメです!
「野火」と並んで年間ベストか?