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恋人たちのryoのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.4
《恋人たち》がワークショップから造られた映画であり、画面に現れる八割がアマチュアの俳優である、ということから、橋口亮輔監督が七年ぶりに撮った長篇で何をしようとしたのか、ある程度推し量れる。
彼はたぶん巧い映画が撮りたかったのではない。橋口監督は、いまこの国で“普通に”生きている人を描くことで、この社会のありようを描こうとした。そしてそれは、残酷なまでに成功している。
無差別殺人犯に妻を殺され、裁判のために厳しい生活を送りながら、市役所の窓口では露骨に邪険に扱われるアツシ。繰り返す日々の空虚さに耐えかね、非日常の恋に賭けようとして道を外れていく瞳子。社会でそれなりの成功を収めていながら、ほんとうに恋しい人には声が届けられない四ノ宮。それぞれ篠原篤、成嶋瞳子、池田良という俳優の魂に向かって当て書きされた三人は、この社会が育ててしまった理不尽をその身に受け、もがき苦しむことになる。
橋口亮輔は怒っている。どうしてこうなってしまった、と。失ったものはあまりに多く、絶望は深い。橋梁点検をしながら社会の根底に耳を澄ますアツシは言う、「全部ぶっ壊れてる」。前に進もうと足掻けど空回り、逃げ出そうとしてもうまくいかず、情けなく、口惜しく、辛く、苦しい。
それほど深い付き合いでもない職場の先輩に、怒りと憎しみをぶちまけるアツシに(彼には親しみを育てる余裕もない)、先輩・黒田は「俺は、あなたともっと話したいと思うよ」と言う。それは何の解決をもたらす言葉でもない。世の中に片附くなんてものはない。しかし、そういうささやかな温度を持った断片を重ねることで、人は生きる。
最後にアツシが見上げた青空は、愚かさや醜さをそこかしこで露わしつつあるこの世界を、まるごと包み、美しい青で彩っている。「よし」。そして生活は続く。
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