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クリード チャンプを継ぐ男のdojiのレビュー・感想・評価

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ここにあるのは魂しかないなあと思えるほど、本当に気持ちがいい映画だった。レンズを向けられたすべての登場人物が、ことばをつまらせたり、憤り、衝突したりしながらも、少しずつ前に進んでいく。それを静かに、とても静かに見つめる視線がとにかく優しい。

カメラワークにしても、冒頭からぐっと観客を引きつけ、試合のシーンはほんとうに息がつまるほどの躍動感。こんなボクシング映画は正直いままでみたことがなかった。

演技を静かに促していくような演出と、ワンカットと数秒の音楽ですべてを語らせる確かな編集。ラストにかけては涙が止まらなかった。アドニスの葛藤を、決して過度なドラマにしていないのもいい。

『ロッキー』は崖っぷちの男が、運命に挑むことを選択した話であるけれど、この主人公は崖っぷちでは決してない。このままじゃだめなんだ、これをやるしかないんだという衝動だけが、アドニスを突き動かしている。それはおそらく、じぶんに嘘をついたり、なにかを手放さなければいけなかったひとのこころを、確実に強くゆさぶることだろうと思う。
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