ユースケ

エイリアン:コヴェナントのユースケのネタバレレビュー・内容・結末

エイリアン:コヴェナント(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

人類誕生の謎は解き明かしたもののエイリアン誕生の謎はうやむやに終わった【プロメテウス】の続編は、期待していた考古学者のエリザベス・ショウ博士(ノオミ・ラパス)と首だけアンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー )がエイリアン誕生の謎を求めて宇宙を駆け巡るバディムービーではなく、人間を創造したエンジニアとの出会いによってアンドロイドを創造した人間も作られた存在だと確信したアンドロイドのデヴィッドが「僕は新世紀の神になる」と人間に反旗を翻し、エンジニアが人間を創造し人間がアンドロイドを創造したように、完璧な生命体=エイリアンを創造しようとエンジニアも人間もまとめて血祭りに上げるSFスプラッターホラー映画。

みどころは、御年79歳のジジイが撮ったとは思えない鮮血と臓物が飛び散るジューシーな惨殺シーンの数々。
あらゆる身体の部位を食い破って誕生し、真っ白なボディを真っ赤に染める試作型エイリアンのネオモーフちゃんの暴れっぷりはもちろん、植民船コヴェナント号の船長(ジェームズ・フランコ)と着陸船のパイロットの人間バーベキューやイタリアの彫刻家クレメンテ・スシニの人体解剖蝋人形【解剖ヴィーナス】を思わせるエリザベス・ショウ博士の解剖死体など、低俗なものから高尚なものまで多種多様。
馬蹄形の宇宙船からエンジニアの作り出した生物兵器を撒き散らして広場に集まったエンジニアの群れを大虐殺するシーンの絵画のような美しさやドリフのコントのようなテンパって血で滑って転ぶシーンの2連発にはシビれました。

アンドロイドのデヴィッドがアンドロイドのウォルターに放った「決断の時だ。天国の僕か、地獄の支配者か。」という決めゼリフからジョン・ミルトンの【失楽園】を連想させ、エンジニアの大虐殺に思いを馳せながらアンドロイドのデヴィッドが詠ったパーシー・ビッシュ・シェリーの【オジマンディアス】からプロメテウス&作者繋がりで【鎖を解かれたプロメテウス】を、アンチテーゼ&夫婦繋がりでメアリー・シェリーの【フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス】を連想させ、アンドロイドのデヴィッドのお気に入りの曲リヒャルト・ワーグナーの楽劇【ニーベルングの指環】の序夜【ラインの黄金】のフィナーレ【ヴァルハラ城への神々の入城】から巨人と神の時代の終わりを告げるプロメテウスと同じく火を司る半神ローゲを連想させ、造られたものが造ったものに反抗という本作のテーマを暗示させていますが、前作同様、ある程度の教養がないと難解でわけがわからないと思います。

というわけで、アンドロイドのデヴィッドのドヤ顔エンディングに唖然とさせられた方もいらっしゃると思いますが、本作のテーマを知れば主人公はリプリーもどきの女(キャサリン・ウォーターストン)ではなくアンドロイドのデヴィッドなのでこれでOK。
デヴィッドとウォルターという二人のアンドロイドを演じ分けたマイケル・ファスベンダーのキスシーンやステゴロシーンも素直な気持ちでお楽しみ下さい。

死して名を上げたエイリアンの脚本を書き上げたダン・オバノンやエイリアンのクリーチャーデザインを描き上げたH・R・ギーガー、ついでに続編を作り出した監督たちをエンジニアと人間に置き換えてぶち殺し、無印の監督である自分をアンドロイドのデヴィッドに置き換えてエイリアンを作り出し、誰がホンモノのクリエイターかを世に知らしめようとする棺桶に片足を突っ込んだリドリー・スコット監督の「あと二本で全てが判明する」発言。よく考えてみたらアンドロイドのデヴィッドの瞳からはじまり、造られたものが造ったものに反抗する物語を描いた本作は殆ど【ブレードランナー】だったので、【エイリアン】と【ブレードランナー】の世界が繋がる日は目の前なのかもしれません。アンドロイドは創造主の夢を見るか?

ちなみに、アンドロイドのデヴィッドの罠だとも知らず、惑星を調査する決断を下したコヴェナント号の副官が宗教野郎だった事に無神論者のリドリー・スコットの悪意あるメッセージを感じました。