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パプーシャの黒い瞳のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

パプーシャの黒い瞳(2013年製作の映画)
4.6
圧倒的な映像美で描かれる実在したロマの詩人の物語。文字には呪いがかかっていると言われながらもパブーシャは文字を覚え、詩を吟じ、次第に文字に書き留めるようになる。それは迫害から逃れロマと共に暮らしていたガジョ(ロマ以外のよそ者)への恋心からでもあった。

明暗のコントラストの強い映像美に心奪われるが、内か外か、善か悪か、二元論で生きるロマの世界でもあり、多様な価値観をもつ外部の「世界」を拒絶しているかのようだった。黒い森に守られ生きるロマには外部の言葉である「世界」はなく、迫害から逃れ続けることで、「外」「世界」とは交わらない。「世界」をすり抜けることがロマの生きる道である。街に定住するとモノクロのコントラストは弱まり、灰色の中にロマたちは居た。

ジプシー初の詩人と言われたパプーシャだが、ロマのコミュニティでは外の世界とつながり、ロマの秘密(言葉や道筋や慣習や暮らし等)を教え、掟を破ったと非難される。

パプーシャの辛い人生を通して、本作ではロマの閉鎖性と家父長制の中の女性の生きづらさが強調されすぎていたのではないかと、ガジョ(外部)の私は思う。「世界」から支配されたくない、影響を受けたくないと、流浪するロマの文化について、他文化の価値観をもって非難したくない。知りたかったのは、パプーシャの詩の内容。

パプーシャは外の世界に関心をもったというより、自分の内側から沸き上がる言葉が止まらなかった。沸き上がりどこかに消えていく、ゆくえ知らずの言葉。明日に思い出すために、今を歌っていた。

💓mimicotさん、素敵な作品ご紹介いただきありがとうございました。
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