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人生はローリングストーンのakrutmのレビュー・感想・評価

人生はローリングストーン(2015年製作の映画)
4.0
アメリカのポストモダン文学の旗手と言われる作家のデヴィッド・フォスター・ウォレスを、ローリングストーン誌の記者デヴィッド・リプスキーが密着取材をした5日間を描いた、ジェームズ・ポンソルト監督のドラマ映画。相変わらず邦題はズレまくっている。

ウォレスの自殺後に上梓したリプスキーの著作が原作となっていて、ウォレスを演じるジェイソン・シーゲルとリプスキーを演じるジェシー・アイゼンバーグの二人の会話シーンが映画の大部分を占めている。今まで見知らぬ人どうしであった(と言っても、作品を通じて作家を知っているわけだが)作家と記者の微妙で緊張した関係がじっくりと描かれていて、とても地味な映画ながらも、精神的に不安定であったウォレスの人となりや(記者から見た)内面がヴィヴィットに表現されている。

リプスキーの視点からウォレスを描いているので、ウォレスのナード特有の気難しさを強調しているように(個人的には)見えるが、でも(取材を許可したとは言え)いきなりプライベートに入り込んできて、ほとんどの時間を共有するは、自分の人間関係にズカズカと割り込まれれば、ナードでなくたって嫌になってこんな態度をとるだとう。私にはウォレスの心情がよくわかる。自分もナードなのかもしれんが。一方で、記者特有の図々しさやあざとさもきちんと描かれているので、そういう意味では中立的で好感が持てる。

ウォレスとリプスキーを描くというノンフィクション的な側面以外での本作の見どころは、何と言っても、ウォレスを演じたジェイソン・シーゲルであろう。『寝取られ男のラブ♂バカンス』や『SEXテープ』などコメディ映画(個人的にはドラマ『ママと恋に落ちるまで』も好き)に多く出演しているジェイソン・シーゲルがこのようなシリアスな役を演じるのはかなり珍しいが、見事に演じきっている。また、いい奴っぽいが野心を秘めているような男性を演じたらピカイチのジェシー・アイゼンバーグも印象的。なお、ウォレスの大学院時代の同級生ベッツィを演じたミッキー・サムナーはスティングの娘である。

ウォレスの作品は日本語でほとんど読むことができないが、彼の代表作である『Infinite Jest(無限の戯れ)』が本映画でも言及されている。もちろん私も読んでいないが、1000ページにも及ぶ大作はジョイスの『ユリシーズ』やピンチョンの『重力の虹』と並ぶ、辞書小説(encyclopedic novel)の代表作とされている。また、『これは水です(This Is Water)』という、ウォレスが大学の卒業式での祝辞スピーチが元になっているエッセイも有名である。
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