MikiMickle

ソング・オブ・ザ・シー 海のうたのMikiMickleのレビュー・感想・評価

4.1
海ではアザラシの姿、陸では人間になるという妖精“セルキー”。その母と人間の父との間に生まれた兄妹。
兄のベンは、灯台守りの父とともに、母からアイルランドの伝説や歌を教えてもらう幸せな日々を送っていました。
が、妹のシアーシャが生まれた日、お母さんは海へと消えていってしまいます……
それから6年。
母がいなくなったのは妹のせいだと、いまだしゃべる事の出来ない妹に意地悪ばかりしてしまうベン。 シアーシャの誕生日であり、母の命日でもある日に、ある事件が…… そして、ベンとシアーシャは、二人を心配する祖母に連れられて町へと連れていかれます。
そこに襲いかかるフクロウの魔女マカ。連れ去られてしまった妹を助け出すために、忘れ去られている伝説と魔法の国へと迷い混んだベン。
幼い二人と一匹の犬クーとの大冒険が始まります。母の残した歌と、貝殻の笛を頼りに……


アイルランドの神話を元に描かれる幻想の世界。
まるで絵本の世界に入ったかのような浮遊感。
デフォルメされた人物や風景はひとシーン毎に美しくデザインされており、細部まで細かく描かれております。草木一本も、岩も。可愛らしさの中に、自然への愛と尊敬を感じます。海の泡ひとつにしても…

そしてストーリー。
様々な不思議な世界。母の形見の貝の笛を吹くと現れる小さな光。それに導かれて出会う伝承の妖精たち。彼らは愉快でキュートである一方で、何かしらの本質を残していきます。
そして、彼らとの出会いの中で、ベンは本当に大事なものが見えてきます。シンプルだけれども、非常に奥深いです。

生命の根元である海。海には計り知れない歴史があります。深く…深く…。私たち人間もその一部。
そして、それぞれに物語が。それぞれに愛が。そして悲しみが。
その悲しみを封じて生きる事が果たして幸せなのでしょうか。悲しみや嫌な事と対峙する事を放棄して、前に進む事の出来ない気持ちは誰しもあります。それを乗り越える気持ちを後押ししてくれるような作品でもありました。

一人の少年の冒険を通して、失われていく伝承や伝説を愛しみ、自然と共に生きてきた人類の歴史を垣間見ます。
そして、成長と、妹を救いたいというベンの必死な愛情と力強さ。これに心を打たれます。犬のクーのピュアな思いも…
親心・子供心。母への愛。涙がポロポロと溢れ出てきました。

美しい映像と、子守唄のような美しい音楽との余韻に浸りながら…、愛と別れと繋がりと、太古の伝承に想いを馳せる…そんな映画でした。魔法にかけられたような、素晴らしい時間をおくる事が出来ました。

なんか、母がいつも歌ってくれていた「からたちの花」と「みかんの花咲く丘」を、不意に思い出しました。母の母がいつも歌ってくれていたそうです。私は祖母には会えなかったけれど、これを自分の子供にも伝えていきたいなと、なんだか、そう思いました。
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