西部の歩き方を学ぶヨーロッパ製ウエスタン。ジャケットだけ見るとただのB級作品っぽいが、蓋を開けてみるとまさかの『トゥルー・グリット』めいた寓話的ロードムービーだった。賞金稼ぎが一応の語り部となっているものの、ストーリー的には寧ろ貴族の坊っちゃんの旅路を描いた御伽噺っぽい雰囲気がある。“惚れた女の子を追いかけて西部まで来た”という経歴は良くも悪くも西部劇らしからぬセンチっぷり。ふらふら彷徨うような緩い展開に加えて、ワルツのような音楽や行く先々で出会う奇妙な人々といった要素が独特のムードを作り出している。坊っちゃんと賞金稼ぎのドラマも含めて総じて地味なので、内容的には正直そこまで楽しい訳でもない。そのくせ妙に印象に残るのが憎めない。
飄々とした雰囲気の内容だけど、同時に作中で描かれる“死”は実に容赦が無い。“女性を背後から撃つ”という往年の西部劇では即禁じ手扱いになりそうな手段が(状況的には仕方ないとは言え)普通に実行される無慈悲ぶりは何気無くも面食らう。不憫な事故死体がひょっこり顔を出す等のナンセンス感もあり、全編に渡って“普遍的な不条理性”が作中の西部に漂っているような印象を受ける。しかし寂寥感を滲ませつつも何処か瑞々しい風景描写が目立つので、暴力的でありながらもそこまで露悪的な血生臭さを感じないのが面白い。坊っちゃんの回想シーンなども程々に感傷的だし、全体的にあんまり埃っぽさが無いんだよな。
終盤の銃撃戦さえも“だだっ広い荒野に佇む小さな家”という絵面を引きで映しているだけに奇妙な趣がある。包囲射撃、籠城戦というシチュエーションに加えて、家屋内のオブジェクトが次々に弾け飛ぶ演出が中々の緊張感を生み出している。ラストは銃撃戦のどさくさによって思わぬ結末へと進んでしまうが、それも含めて寓話のような味わいを感じてしまう。