このレビューはネタバレを含みます
富士の樹海という生と死の境目。
誰もが死を求めて尋ね歩く霊界の入口。
誰が否定してもそれは事実だ。
その森には立入禁止のロープ、立て札が貼られ、死にゆく者を阻む最後の砦が頼りなく存在している。
人々は死に場所を求めてその結界を越えていく。
男の妻は病魔に侵されていた。
頭部にできた腫瘍によって、感情が不安定になり、つまらないケンカを何度もしていた。妻は低くない確率で失敗すると言われた手術を乗り越え、回復する。
しかし、彼女が救急車で運ばれている最中、彼女は男の目の前で交通事故にあい死亡する。
突然の出来事だった。
彼は死に場所を求めて富士の樹海へ向かう。
そこでは実際に人が死に、朽ち果てた姿で横たわっている。
ある者は首を吊り、ある者は服毒自殺をする。
彼はそこで睡眠薬を口にし、この世から飛び立つ準備をする。するとそこに一人の日本人が舞い込む。彼はひどく憔悴し、道に迷ったのだと言う。
男は彼を森から出すために案内しようとする。だが、この深緑の迷宮には、簡単には出口が見つからない。当然だ。立入禁止地帯だからだ。
二人は徐々に奪われていく体力と、雨や崖からの転落を経て、転々と彷徨う。時にミイラ化した死者の眠るテントに身をかがめ、凍える体を火をおこして耐えて生き延びる。偶然テントの中の死者は無線を持っており、彼らは英語で必死に助けを求める。
まるで魂が行き場を探しあぐねているかのように。
だがやがて日本人の体力が限界を迎える。男は彼に必ず助けると言い残し、一人地獄を彷徨い歩く。
すると、偶然無線を傍受した山岳隊が救助に向かい、彼は一命を取り留める。
そして知る。
道に迷っていた日本人の男は、存在しなかったのだ。樹海は煉獄(天国には行けなかったが地獄にも墜ちなかった人の行く中間的なところであり、苦罰によって罪を清められた後、天国に入るとされる)だったのだ。
帰国する彼は樹海で見つけた花を持ち帰る。
その花は、霊があの世に行くときに咲く花。
彼は愛する妻の死を煉獄の試練の中で克服し、天国(生きるという意志)へ向かうのである。
まるで、神曲のようなストーリーだ。
日本のお節介を焦点化したり、日本人の語学力の無さを軽く馬鹿にしながら、死に瀕する渡辺謙は英語が堪能であんまり現実的じゃない。
よく指摘されているとおり、わざわざ死に場所を求めて日本に来るのはあんまり現実的じゃないと思われるが、それはエピソード次第だろう。
何というか、脚本が甘いのだろう。
キャストも監督も映像も内容も良いのに、つまらない。不思議な映画だ。