天豆てんまめ

ヴィクトリアの天豆てんまめのレビュー・感想・評価

ヴィクトリア(2015年製作の映画)
3.2
140分ワンカットという凄みは確かに存分に感じられた。
「バードマン」に比べて、特殊効果やシームレスな編集も一切なく、
屋内だけでない野外の移動が多いので、余計におお~っと思った。
特に2人乗りの自転車で移動するシーンは、何とも言えない明け方のロマンティシズムと青春のリアル感が感じられた。

撮影開始から役者の動きや台詞はミスできないわけで、マイクもカメラももちろん映ってはいけない。何よりも明け方から夜まで照明が一番難しいのではないか。そして物語で起こるべき事件は起こす必要があり、それを全部クリアするなんて、どんだけシミュレーションしたんだと。役者がベルリンを疾走すれば、カメラマンは全速力。後半にかけての息を切らせない感じも見事。まさにオールロケーションワンカットムービー。メイキングを観てみたい。聴くと前半、4人の若者が路上で酔っ払っているシーンで2人の通行人が絡むのだが一般人らしい。スキンヘッドの男がアドリブで喧嘩腰に追い払ったのだが、それも自然で凄いなと思う。撮影はたった12ページの台本のみらしいが、俳優の即興演技を信頼しきっていることになる。

これは劇場で観たら相当な没入感と陶酔感を味わえたのだと思うだが、冷静な気分で自宅で観ていると、そのワンカットの凄みよりも、人間ドラマの違和感や、ただクラブで踊りまくるところとかの冗長感が感じられ、特に主人公のヴィクトリアがこんな怪しい4人の男に簡単に付いていき、犯罪に加担していく浅はかさと調子の乗り方に「この娘、なんか嫌い」となってしまって感情移入度0の中、自業自得の破滅に進んでいったのを眺める感じ。

ただヴィクトリアが中盤、カフェでピアノを弾くシーンはうまく目と耳を奪われる。その後、彼女の破天荒行動の理由として、全てをピアノに捧げて挫折した中、生まれのマドリードからベルリンで孤独に暮らしていることが語られるのだけどその反動にしても、う~ん今一歩寄り添えなかった。

きっと劇場で観たら、そんな彼女の愚かさも吹っ飛ぶほど没入できて、夢と現実がシームレスになる感覚を味わえたと思うので、それは体感したかったなと思う。